Die Geschichte von Seelen der Wolken



Die Geschichte von Seelen der Wolken


第十話   使い魔と守護獣





新歴65年 12月3日  時空管理局本局  テスタロッサ家居住スペース  AM7:00



 「なのは、朝だよ〜」


 「う、ううん」


 「ほら、起きてなのは」


 「あと、五分」


 本局にある自室にて、現在苦戦中のフェイト。


 元々寝起きの悪い方ではないなのはだが、昨夜の激闘に加えリンカーコアが蒐集されたこともあり、中々起きる気配がない。


 「起きないのか?」


 そこに、とあるデバイスが動かす魔法人形が顔を出す。ちなみに、本体はその中に搭載されておらず、時の庭園の中央制御室からの遠隔操作だったりする。本体は時の庭園を第97管理外世界付近へ移動させるための手続きと作業を並列して行っており、中枢コンピュータであるアスガルドもまたフル回転していた。



 「うん、昨日が昨日だから、無理ないと思うけど」


 「だがなフェイト、ご飯というものは作りたてが一番旨いんだぞ。お前がなのはのために心血を注いで作り上げた至高の朝食を無駄にするわけにもいくまい」


 「そ、そんなに大げさなものじゃないよ」


 「ほうそうか、となると、朝4時半に起きてキッチンで試行錯誤を繰り返していた金髪の少女は一体どこの誰だったのか(推奨BGMなのフェで卵とじ)」


 「………見てたの?」


 「何度も言うようだが、俺の眼はこれだけじゃない。テスタロッサ家のどこにでも機械の眼は光っていると思え」



 この“トール”が本体でないことは実はフェイトも知らない。いや、そもそもトールの本体が現在どこに在るかを把握している人間はこの世にいないのだ。


 それを行えた唯一の人間は、もう既にこの世にいないのだから。



 「まあ、それはともかく、こいつを起こさねばならんな」


 「でも、無理やり起こすのもかわいそうだよ」


 「心配いらん、まあ見ていろ、一秒で起こしてやる」



 そう言いつつなのはの傍に近づくトール(が遠隔操作する魔法人形)。


 そして―――



 『洗浄シマス、洗浄シマス』


 「ストォォーーーーーーッップ!!!」


 一秒もかけずに、なのはは目を覚ました。













新歴65年 12月3日  時空管理局本局  ミーティングルーム  AM8:30



 「ミーティング………なんだよねこれ」


 「うん、多分」


 アースラスタッフが闇の書事件に対してどのような配置になるかのミーティング、ということで集まったわけではあるが、その場にいるのはなのは、フェイト、クロノ、エイミィ、リンディと魔法人形が一つだけ。


 「ユーノ、そっちはどうだ?」


 「順調に進んでる、何度も来たから流石に慣れたよ」


 「あたしの方はもっと順調さ、何しろ、自分の家だからね」


 ユーノ、アルフに加え、アースラの観測スタッフのアレックスとランディ、さらにはギャレットをリーダーとした捜査スタッフは時の庭園に入り、現地に着いてすぐに本部として役割を果たせるよう機材の調整などを行っている。当然、そちら側の統括は管制機トールであった。


 「予定としては、なのはさんの保護を兼ねて、なのはさんのお家の近くに臨時作戦本部を置く予定だったのだけど、彼の提案で時の庭園を利用することになったの。だから、アースラのスタッフは時の庭園の準備に取り掛かってるわ」


 「まあ、そっちにも拠点を置くことは変わりないし、時の庭園が到着するまではあたし達はマンションにいるから、やっぱり現地にも拠点があった方が何かと便利だし、御近所付き合いもあるし」


 「じゃあ、フェイトちゃんのお家が本部になるってことですか?」


 「そういうこった。時の庭園は通信設備、転送設備に加え、リンカーコアが損傷した人間を治療するための設備も充実している。ぶっちゃけ、闇の書事件を追うならアースラよりも向いていると言えるだろう」


 「それを言われると身も蓋もないな」



 苦笑いを浮かべるクロノだが、その言葉を否定することが出来るわけでもない。



 「えっと、ユーノとアルフは向こうで頑張ってくれてて、アースラの皆も一緒に頑張ってて、なのはとわたしは何をすればいいの?」


 「何もない」


 「何もないんですか!」


 「というのは嘘で」


 こける寸前で踏みとどまるなのは、流石に耐性がついてきた模様である。


 「お前達の役割は敵の研究だ。ヴォルケンリッターの捕捉まではアースラスタッフの役目だが、その後はAAAランク魔導師であるお前達の出番になる。当然、ユーノとアルフも戦線に加わるが、主戦力はお前達であることは変わらない」


 「あたしは管制官だから、サポートが役目だし、艦長は全体の指揮でクロノ君は現場指揮。だから、なのはちゃんとフェイトちゃんが守護騎士と戦う際の主戦力ってことになるんだ」



 幼い少女を主戦力として扱うことに抵抗がないわけはないが、一度決定したならば迷いは持たず、彼女らが万全な状態で他のことに気を取られず戦いに全力を尽くせるよう支援することに力を注ぐ。


 アースラスタッフは若い年代が多いが、その割り切りができ、自分達の能力の限界をわきまえている者達であった。



 「前回は、敵の作戦にやられた形になってしまったからね、今度はそうならないように予め配置や相対した際の注意点を確認しておきたい」


 「マンションの方の準備はあたしと艦長でやっとくから、クロノ君、トール、後よろしくね」


 「任された。そっちには肉体労働専門の連中を既に派遣してあるから、遠慮なくこき使ってくれ」


 「ええ、存分に使わせてもらうわ」




 そうして、リンディとエイミィが海鳴市へ向かい、ミーティングルームには三人と一機が残る。




 「ねえトール、肉体労働専門の連中って、何?」


 「ああ、以前お前との訓練用とかに使ってた格闘戦用の魔法人形を外見は人間と同じで、低ランク魔導師用のカートリッジで駆動するように調整したんだ。戦闘能力はほとんどなくなったが、重いもんを運んだりする時には力を発揮する、早い話が引っ越し用魔法人形、ってとこだ」


 「いつの間に……」


 「聞くな」


 「まあそれはともかく、そろそろ始めるよう、トール、画面を」


 「アイアイサー」



 彼の言葉に応じ大型ディスプレイが表示され、そこには四騎の騎士の姿が映し出される。



 「闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターの強さは直接戦った君達はもう十分に知っているだろう。魔導師ランクにすれば間違いなくSランク以上の戦闘能力を持っている上、彼らは古代ベルカ式を操る」


 「つまり、殺傷設定のデバイスで戦っている、ってことだよね」


 「ああ、カートリッジの特性については昨日言ったとおりだが、守護騎士は古代ベルカ式の使い手だけでなくさらに厄介な特性を持っている」


 「えっと………」



 考え込むなのはだが、まだ戦闘に関する本格的な訓練を積んでいない彼女では答えを出すことは不可能だった。



 「フェイトはもう知っているかもしれないが、復習も兼ねて一から説明する。まず、僕達が使うミッドチルダ式魔法は汎用性を求めた技術体系であり、安全に扱うことに主眼が置かれていることから、射撃や砲撃などの遠距離攻撃、もしくはバインドが主流だ。フェイトのような高速機動からの近接攻撃を得意とするタイプは珍しい」


 「うん、つまり、なのはのようなタイプが一般的ってことだよね」


 「ああ、それに対してベルカ式は広範囲攻撃や砲撃などの遠距離攻撃をある程度捨て、対人戦闘に特化している。身体強化やアームドデバイスの扱いは得意だが、魔力を身体から離すことや遠くへ撃ち出すことを不得意とする。これは、近代ベルカ式においてもかなり似通っている傾向なんだが―――」


 クロノが端末を操作し、ディスプレイに昨日の戦闘風景が映し出される。



 【飛竜一閃!】


 【グラーフアイゼン!】


 【逆巻く風よ!】


 【縛れ、鋼の軛!】



 剣の騎士からは砲撃魔法に匹敵する一撃、飛竜一閃が放たれ、鉄鎚の騎士からは4個の鉄球を遠隔操作するシュワルベフリーゲンが放たれ、湖の騎士もまた遠く離れた場所に竜巻を発生させ、盾の守護獣は攻撃と捕縛の両特性を備えた魔力の奔流を叩き込む。



 「これ、古代ベルカ式なの?」


 「そう思うのも無理はないが、ベルカ式の特徴を表す三角形の陣が展開されていることからも間違いはない。つまり彼らは、近接戦闘で本領を発揮するアームドデバイスの使い手であると同時に、ミッドチルダ式と同等の遠距離攻撃をも備える戦闘のエキスパートということだ」


 「シグナムの近接の一撃、紫電一閃はバルディッシュの防御を破るほど凄い威力だったけど、遠距離攻撃も持っていた……」


 「わたしが戦ったあの子も、一撃でレイジングハートを壊しちゃったけど、鉄球を操るのも上手かったもんね……」


 「さらに、ベルカの騎士は一対一ならば負けはないとまで言われるが、集団戦にも彼らは長けていた。いや、個々人の実力も極めて高いが、集団戦になるとさらに本領を発揮すると言うべきか」


 彼女らの脳裏に浮かぶのは、竜巻が発生してからの一部の隙もない守護騎士の連携。


 シャマルが竜巻で隙を作り出し、シグナムが飛竜一閃から紫電一閃へ繋ぎバルディッシュを破壊、ザフィーラもアルフを鋼の軛で負傷させ、ヴィータをフリーの状態でユーノの下へ辿りつかせる。


 まさしく、それぞれの能力を把握し、互いに信頼し合っているからこそ可能な連携技。なのは、フェイト、ユーノ、アルフの四人だけでは不可能な芸当である。



 「集団戦だと、勝ち目は薄そうだね」


 「集団戦のコンビネーションというものは一夕一朝で身につくものじゃない。当然、出来る限り集団戦でのコツは教えるが、それだけでは守護騎士を倒すまでには至らないだろう」


 「じゃあ、どうするの?」


 「そこで俺と捜査スタッフの出番というわけだ」



 その言葉と同時に、ディスプレイの画面が切り替わる。



 「これは、何ですか?」


 「なのはの世界、第97管理外世界周辺のリンカーコアを持つ大型魔法生物の保護地域を分布だ。お前達が昨日会った威厳あるおっさん、ギル・グレアム提督の権限で既に地球周辺の世界には魔導師の滞在が禁じられている、まあ、一種の戒厳令みたいなもんか」


 「あまり使いたい手段じゃないが、魔導師襲撃事件がなのはの世界を中心に起こっている以上、管理局としては渡航制限をかけるのも止むを得ない状況だ。そして、獲物である魔導師がいなくなれば、守護騎士達が狙えるのは魔法生物しかいなくなる」


 「そこを、俺と時の庭園のサーチャーやオートスフィアで網を張る。その情報は各地に派遣されるアースラの捜査スタッフを通じてエイミィに届き、そこからクロノを通してお前達に指令が届き、守護騎士の下へ転送する。理想は一人で蒐集に来たところを四人くらいで待ち伏せして、ぼこることだ」


 「なんか、卑怯………」


 「流石に、かわいそうというか……」


 「ああん、文句あっか負け犬共。そもそも手前らが一対一でヴォルケンリッターに勝てんなら捜査班もここまで回りくどいことしなくてもいいんだよ、そういう台詞は守護騎士に勝てるようになってから言え」


 「「ごめんなさい………」」



 項垂れる二人、何だかんだで守護騎士にいいとこなしでボッコボコにやられたことを気に懸けているのである。



 「ちょっと言い過ぎだぞ、トール」


 『申し訳ありません。ですが、彼女達には暴走しがちなところがありますから、たまには毒舌も必要なのです』


 「急に口調を戻さないでくれ、混乱する」


 『そう落ち込むことはありませんよ、二人とも。貴女達はまだ9歳であり、出来ることは限られている。ならば、自分に出来ることを見つめ直し、出来ることをやれば良いのです。それに、時には大人を頼ることも必要ですよ』


 「トールさん……」


 「ありがと……」


 先ほど罵倒された張本人から慰められているわけではあるが、口調どころか音声まで変わっていたため、別人に言われている気分になっている少女二人。



 「ったく、トールさんはこいつらに甘過ぎるんですよ、そんなだからこいつらが無茶ばっかりするってのに」


 『ですが、そのための舞台を整えることが私の役目です。それに、レイジングハートとバルディッシュもおりますから、大丈夫ですよ』


 「済まないが、一人で対話をしないでくれ、余計混乱する」


 「えっと……」


 「どっちがトール、いや、どっちもトールで、あれ?」



 見事に混乱中。



 「驚いたか、これが俺の人格切り替え攻撃だ。裁判の途中でこれをやられた日には最悪だろ」


 「だろうな、途中で人格をホイホイ変えられては混乱するなという方が無理だ」


 「まあそれは置いといて、話を戻すが、守護騎士を捕捉してお前達エース級魔導師がその全力を発揮できるような環境を整えるまでが俺達後方支援組の役目だ。とはいえ、四対一の状況に持って行ける可能性はぶっちゃけ低い、そこで、お前達の課題は一対一で互角の勝負に持ち込めるようになることだ。集団戦じゃなければ勝機はある」


 「一対一で……」


 「シグナム達に、勝つ……」


 「そのためにレイジングハートとバルディッシュも強化中だ。高ランク魔導師用のカートリッジシステムを搭載し、さらにはフルドライブ機構も導入する。これなら、デバイスの面では守護騎士と同等のところまではいける。クロノのS2Uには付いていないが、こっちは特に必要ないからな」


 「彼らの完成には少なくとも三日はかかる。その間に可能な限り、集団戦や古代ベルカ式を想定した訓練を行っていくからそのつもりでいてくれ」


 「でも、レイジングハートがいないとわたしはあまり魔法が……」


 「わたしも、バルディッシュがないと……」


 それが、インテリジェントデバイスを扱う場合の最大の欠点といえた。


 それぞれの魔導師に応じて最適のAIを組み込み、呼吸を合わせることで真価を発揮するために、代わりというものが存在しない。正規の訓練を受けた武装局員が汎用的なストレージデバイスを使うのはそのためである。


 これは、管理局のみならず、地球に存在する軍隊などにも同様のことが言える。軍隊で主力として使用される兵器は強力な兵器ではなく、生産しやすく、整備しやすく、運用しやすい兵器。ストレージデバイスはまさにその三点を全て備えている。


 逆に、インテリジェントデバイスは生産するのが大変で、整備するにはデバイスマイスターが必要で、壊れた際の予備がないため運用しにくいという代物。まさしく、一般の武装局員が扱うべきものではなく、一握りのエースが持つべきものであった。



 「そこは気にするな、ミレニアム・パズルにはレイジングハートとバルディッシュのデータが登録されている。現実空間でフレームが壊れていようが、データさえ無事なら仮想空間(プレロマ)で模擬戦は出来るのだ」


 「僕も聞いた時は驚かされた、人間の治療中には考えられないことだが、デバイスの修理中にはそういうことも出来るらしい」


 レイジングハートとバルディッシュに必要なものはフレームの修復と、カートリッジシステム、フルドライブ機構の搭載。


 つまりその間、彼らのAIが本体にある必要はない。トールがオーバーホール中に別の機体にリソースを移して活動を続けたように、レイジングハートとバルディッシュも同様のことが可能。


 かといって、通常のストレージデバイスに彼らのAIを搭載したところでなのはやフェイトが万全に魔法を使えるわけではないが、ミレニアム・パズルの仮想空間(プレロマ)ならば話は別。



 「そしてさらに、仮想空間(プレロマ)ならばリンカーコアがまだ完治していないなのはも身体のことを気にせず魔法を放つことが出来る。まあ、肉体が実際に経験していない以上片手落ちではあるが、それでもある程度の効果はある」


 「えっと、仮想空間(プレロマ)の体験は記憶に残らないんですか?」


 「いいや、記憶には残る。だが、人間の身体というものは複雑でな、脳に直接情報を刻みこむことで“思い出”を作ることは出来ても、魔法の特訓のような“身体で覚える”ことは反映出来ないものなんだ。まるっきり意味がないわけじゃないが、現実空間で身体を使って模擬戦をすることに比べれば、どうしても経験値で劣るんだ」


 現実空間と仮想空間の間には隔たりというものがある。その境界を“騙す”ことによって可能な限り薄くすることが嘘吐きデバイスの役目ではあるが、やはり限界というものは存在するのだ。


 「とはいえ、現実空間での1時間は仮想空間(プレロマ)での7日間に相当する。デバイスを使っての高度な戦闘を行うとなるとレイジングハートやバルディッシュのリソースの都合上、1時間を1日に相当させるくらいが限界だが、それでも十分な訓練期間になるだろう」


 「そういうわけだ、仮想空間(プレロマ)ではあるが、丸一日かけて徹底的にしごいてやるからそのつもりでいてくれ。現実での時間はせいぜい1時間だから、学校があるとなどの理由で休むことも却下だ」


 「うわぁ……」


 「凄いことになりそうだね……」


 「ついでに言えば、現在管理局が保有している守護騎士の戦闘データを基にした“仮想守護騎士”も俺とアスガルドで用意する。こいつらを倒せるようになれれば、第一段階は終了という感じだ」



 トールの演算に無駄というものはなく、フェイトが闇の書事件に関わることを決めた以上はあらゆる面でサポートする。


 自分の持つ機能、時の庭園が備える機能、さらにはテスタロッサ家の財力、それらは全てフェイト・テスタロッサのためにのみ使用される。


 それが、今の彼の在り方であった。














新歴65年 12月3日  時空管理局本局  テスタロッサ家居住スペース  AM10:03



 今後の訓練内容について一時間半ほど話した後、クロノもエイミィやリンディを手伝うために海鳴に向かった。なのはとフェイトは向こうがある程度片付く頃、大体正午辺りに向かう予定であるため、若干時間に余裕がある。


 その時間を利用して、フェイトが抱いた疑問についてトールが解説していた。



 「それでフェイト、お前の疑問はヴォルケンリッターの一人、盾の守護獣は誰かの使い魔なのかってことだな」


 「うん、アルフが自分と同じような気配を感じたって言ってたから」


 「その認識は多分間違いじゃないな、ベルカでは使い魔は守護獣と呼ばれ、その特性はミッドチルダにおける使い魔とそう変わらない。だが、他の騎士の使い魔、つーか守護獣とは考えにくいな」


 「どうしてですか?」



 今度はなのはから質問が出る。トールに対して敬語を使うのはなのはくらいのものであり、ユーノもここ一ヶ月半ほどアースラで共に作業していた間に慣れていた。



 「使い魔ってのは、魔導師が契約する形で作り出すものだが、その能力は主にないものを備えているものなんだ。フェイトだったら自身が近距離、遠距離を含めた攻撃魔法と高速機動得意とし、防御が薄いため、使い魔であるアルフは補助系のバインドや転送魔法、さらには防御を得意としている」


 「なるほど、つまり、使い魔は自分にないものを持っていてサポートしてくれるんですね」


 「その通りだ。時空管理局の高ランク魔導師には使い魔を持っている人物も多くいるが、その中でも理想形とされるのが、お前達が昨日会ったギル・グレアム提督だ」


 「理想形?」


 「ああ、高ランク魔導師は数少なく、管理局にとっても貴重な戦力だが、彼らが提督などといった高い役職に就くと前線で活動するわけにはいかなくなる。上の人間は部隊配置や運用を司ることが主だから特に魔導師である必要があるわけではないが、“現場の魔導師とその限界”をよく知っている人材が必要なのも事実なんだ」


 「確かにそうだね、能力的には必要なくても、現場のことを実体験で知っていて、高ランク魔導師の能力の限界を理解しているという点で魔導師である将官が必要になってくる」


 「そういう時に使い魔というものは役に立つ。簡単に言えばフェイト、将来お前が次元航行部隊の艦長になったとしよう。その時お前はSランク以上の魔導師になっていて、管理局にとっては前線で働いてくれると非常に頼りになるが、艦長である以上はそう簡単には動けない。そんな時に、お前の魔力をほとんどアルフに渡してしまえば、アルフが代わりに前線に出られるってことだ」



 そのような形で、管理局は高ランク魔導師が出世した際に生じる戦力の不足を防いでいる。人材不足が問題であることを知りながら、それに対して何も対策を講じない組織など存在せず、絶対数が足りていないために根本的な解決とはなっていないが、管理局とてただ手をこまねいているだけではないのであった。



 「今はまだ全ての魔力を自分で使えるほど身体が成長していないからアルフに魔力を渡すことに意味はあるが、あと数年もすればフェイト一人で動いた方が効率は良くなる。だが、さらに時が立って組織的な問題からフェイト方が自由に動けなくなると、今度はアルフの方が一人で動くようになる、面白いもんだろ」


 「魔導師と使い魔は、本当に助けあう存在なんだね」


 「でも、グレアムさんが理想的っていうのはどういうことなんですか?」


 「その疑問は最もだが、純粋な足し算の問題だ。ギル・グレアム提督はSランク相当の魔力を保有する高ランク魔導師だが、どちらかというと魔法を自分で放つよりも、魔法をカードとか別の所に込めておいて自由自在に解き放つ、という間接的な手法を得意としていたそうだ」



 その技術は、リーゼロッテ、リーゼアリアの両名に引き継がれてもいる。



 「そして、他の場所に魔力を込めることを得意とする彼は二人の使い魔を従え、それぞれ格闘戦と魔法戦を得意としているとかで、共にSランク相当の実力者、この意味が分かるな」


 「え? じゃあ、一人のSランク魔導師から、二人のSランク相当の使い魔が作られたってこと?」


 「その通り、流石に二体の使い魔を維持する以上は彼自身は魔法をほとんど使えなくなるようだが、“高ランク魔導師としての経験”はなくならない。つまり、ギル・グレアム提督は一人で、現場の経験を持つ魔導師の指揮官と、先陣に立って切り込む格闘戦に秀でたSランク魔導師と、前線で武装隊を指揮しつつ援護可能な魔法戦に秀でたSランク魔導師、その三役を埋めることが出来るわけだ」


 「凄い……ですね、経験を生かした司令官と、前線で指揮する高ランク魔導師の両方を一人で出来るなんて」


 「それも、突撃役と現場指揮官の両方を」


 「ま、あのクロノの師匠って立場だからな、それに、そのくらいじゃないとあの時代を生き抜いて艦隊司令官になれはしないな」


 「でも、そうなるとリンディさんは使い魔を持っていないんですか?」


 「あの人もちょっと特殊でな、リンディ・ハラオウンは中規模の次元震すら完全に抑え込めるディストーション・シールドを単独で張れるほどの結界魔導師だ。つまり、次元干渉型ロストロギアに対する最後の切り札みたいなもんで、通常の運用よりも、いざという時の出力こそが重要になる」



 リンディ・ハラオウンは結界魔導師であり、格闘戦などのスキルを持たないため、直接的な戦力にはなりにくい。そんな彼女が使い魔を持てば、アルフのような近接格闘型の使い魔となることは疑いないが。



 「つまりだ、あの人の使い魔に出来ることは、武装局員でも出来るってことであり、Bランク魔導師でも4人くらいをうまく運用すればAAランク魔導師と同じくらいの働きをさせることは可能ってことだ。むしろ、代用が効く程度の戦力のためにいざという時のリンディ・ハラオウンの最大出力を弱めることの方がもったいないわけだ」


 「リンディさんの使い魔は武装局員数名で代わりが効くけど、リンディさん自身の能力は、十数名の武装局員がいても変わりが効かない、ってこと?」


 「その通り。だからこそ、使い魔を持つべきかどうかもケースバイケースなんだ。古代ベルカ式の稀少技能を持っている場合なんかも、使い魔、この場合は守護獣を持たずに自身の能力をフル活用する方が望ましい」


 「結構難しいんですね」


 「じゃあ、なのはが使い魔を持ったら、どんな子になるかな?」


 「ユーノが出来あがるな」



 即答、まさに即答、そこには1秒の遅れも存在しなかった。

 

 「そ、そうなんですか」


 「考えても見ろ、なのはに出来ることでユーノにも出来ることはあるか? 逆に、ユーノに出来ることでなのはにも出来ることはあるか?」


 「えっと………砲撃、はユーノには無理だし、誘導弾の制御も無理、そもそも射撃魔法自体が苦手なわけで……」


 「わたしは、ユーノ君みたいな結界は使えないし、転送魔法も無理、治療も出来ないから………バインドとシールドくらい、かな?」



 改めて考えてみると、互いに出来ない部分を持っている二人であった。



 「というわけだ、ユーノ・スクライアはまさに高町なのはの使い魔となるべく生まれた存在と言っていい」


 「ユーノが聞いたら、怒るよ。ただでさえよくクロノにからかわれているんだから」


 「でも、クロノ君だったらどうなるかな?」



 ちょうど話題が出たことで、なのはがクロノに使い魔がいた場合を考えてみる。



 「クロノに出来ないことを使い魔が出来るわけで……………………………………………あれ?」


 「射撃、砲撃、近接戦闘、高速機動、バインド、転送、治療……………クロノ君って何でも出来ちゃう?」


 「あえて言うなら、電気変換や炎熱変換は出来んが、これは資質だからどうしようもないし、使い魔に持たせようと思って持たせれるもんじゃない。広域殲滅型の攻撃もストレージデバイスに登録さえしてあれば使えるらしいし、S2Uには今は登録してないらしいが」



 その辺りの指導を五歳の頃から受けているクロノには、魔法戦における隙はない。ただ、魔法戦に関する汎用性ならば、カードに蓄積した術式を起動させることであらゆる系統の魔法を瞬時に発動させることが出来るリーゼアリアはさらにその上を行く、他ならぬ彼女がクロノの魔法の師なのだから。



 「つまり、こうだ。クロノの使い魔は“何も出来ない癒し系”。それこそが、クロノに出来ないことだ」


 「癒し系………」


 「どうなんだろ………」


 クロノの愛想は良い方ではないことを知っている二人だが、あえてノーコメントにしておいた。口は災いのも門である。



 「とまあ、使い魔講義はそういうわけだが、ヴォルケンリッターの盾の守護獣は他の騎士の守護獣とは考えにくい。あえて言うなら湖の騎士だが、それなら防御型よりも遠距離の敵を攻撃できる射撃型の方が相性はいいはずだ」


 「確かに、シグナムだったらなのはのように、ユーノみたいなタイプになるだろうし」


 「あの赤い服の子は防御も堅かったから、やっぱり足りない部分を補うなら補助系の能力だよね」


 「そう、能力的に考えると湖の騎士が剣の騎士や鉄鎚の騎士の守護獣というのは考えられるが、盾の守護獣はどちらもあり得ず、湖の騎士なら遠距離系のはずだ、空間を操る能力と砲撃を組み合わせられた日には地獄だからな」


 「じゃあ、わたしが使い魔になるってことですか?」


 「なのはの砲撃が、空間を繋いで零距離から……………怖いね」



 この10年後、ナンバーズの誰かがそれに近い悪魔のコンボによって撃ち落とされることとなるが、それはまだ先のことである。



 「まあ何にせよ、盾の守護獣は主の護衛と考えられる。つまり、闇の書を作った本人の守護獣だった、という可能性が一番高いか」


 「闇の書の主の守護獣………」


 「でも、闇の書の主はどんどん変わっていくから、最初の闇の書の主の使い魔、いいえ、守護獣ってことですよね」


 「仮説に過ぎんがな。いずれ、そのことも調べにユーノが無限書庫って言う超巨大データベースの発掘にとりかかる予定だが、そっちの開放ももうちょい先の話だ。それまでに大まかな割り出しくらいは調べておきたいところだが」


 「それは、闇の書の起源について?」


 「応よ、昨日言ったとおり、守護騎士の持っているデバイスを考えれば中世ベルカ時代に作られたものと考えられる。ひょっとしたら、例の黒き魔術の王が闇の書を作った張本人かもしれない」


 「名前的には、ぴったりですよね」


 「確かにそうだ、“黒き魔術の王”が“闇の書”を作った。これほどしっくり来る組み合わせはないな。だがまあ、歴史の事実というのは物語よりも奇妙なことも多いから、どうなんだかね」




 その因果は、まだ誰も知りえない。


 無限書庫は未だ開放されず、夜天の物語は知られることなく歴史の闇へと埋められたまま。


 だがしかし、声に出すことは叶わずとも、夜天と闇の戦いを記録している者達は存在する。


 今はまだ、その道は交わらないが。


 古きデバイスと、古き魔導書の端末との邂逅が、大数式の解を導き出す。


 その解が出る日は、まだ遠い。






あとがき
 現代編は三話の半分くらいですが、一旦ここで過去編へと移ります。現代編のなのはとフェイトの日常シーンは原作通りなので描写はせず、アレックス、ランディ、ギャレットといった裏方のスタッフと、トールが地道な探査で守護騎士の足跡を追い、シャマルが転送魔法や“旅の鏡”を駆使して追えないようにしたりするなど、地味な苦闘を少しだけ書いた後、VS守護騎士第二回戦に移りたいと思っています。ただ、ローセスとザフィーラ関係でそれまでに書いておきたい部分があるため、ここで過去編第三章に入ります。途切れ途切れにならないよう、更新速度は上げていくつもりですので、頑張りたいと思います。それではまた。


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