Die Geschichte von Seelen der Wolken
Die Geschichte von Seelen der Wolken
第十九話 反省会と特殊訓練
新歴65年 12月7日 第97管理外世界 日本 海鳴市 ハラオウン家 PM8:00
「もう一回確認しておくけど、カートリッジシステムは扱いが難しいの。非魔導師とかが使うショックガンとか、Eランクくらいの捜査員とかが使う簡易デバイスに使われてるタイプのカートリッジならそんなに危険はないんだけど」
ある程度立ち直ったなのはとフェイトに、エイミィが生まれ変わったレイジングハートとバルディッシュについての説明をしていく、クロノはこれまでの情報を別室でもう一度確認している。
「えっと、ギャレットさん達も使ってるんでしたっけ?」
「うん、観測指定世界では何があるか分からないから、彼らも準備は万全にして臨んでるよ。だけど、高ランク魔導師の魔力を引き上げるタイプのカートリッジはかなり危険なんだ、フルドライブと併用させて使ったことで大破した例や、リンカーコア障害になっちゃった例もあるし」
「バルディッシュの先発機もそうなったって聞きましたけど、今は大分安全性が高まったって」
プレシア・テスタロッサの娘だけあり、その辺りの知識はかなり豊富なフェイト。
「そうなんだけどね、ぶっちゃけ、なのはちゃんとフェイトちゃんの魔力は大き過ぎるんだ。今はまだ身体が成長していないから無意識のうちにリンカーコアが出力をセーブしてるの、だけど、フルドライブやカートリッジはその限界を突破させる機能を持つ、つまり、分かるよね?」
「はい、身体が成長しきってないからセーブしてる力が解放されたら、その負荷がわたし達にそのまま跳ね返ってくる、ってことですね」
「そういうこと、だから、フルドライブはあくまで最終手段ということを忘れないでね。大人の魔導師でもそれなりに危険が伴うし、何より、その子達がね」
エイミィがやや声を落とし、なのはとフェイトの掌の上にある、二機のデバイスを見つめる。
「なのはちゃんとフェイトちゃんの身体が負荷に耐えられない以上、誰かがその負荷を受けとめなきゃいけない。そして、それを成すのは誰か、言うまでもないよね」
「レイジングハート………ありがとう」
『All right.』
高町なのはを支える杖となること、あらゆる壁を乗り越える風となること、そして、彼女に不屈の心を宿す星となること
「バルディッシュ……」
『Yes sir.』
フェイト・テスタロッサが振るう剣となること、その身を守護する盾となること、そして、彼女の進む道を切り拓く閃光となること
彼らに託された命題がそうである以上、その選択は至極当然、主のために負荷を請け負うことを厭うデバイスなどこの世に存在しない。
「モードは、それぞれ三つずつ、レイジングハートは、中距離射撃のアクセルと、砲撃のバスター、フルドライブのエクセリオンモード。バルディッシュは、汎用のアサルト、近接攻撃用のハーケン、フルドライブのザンバーフォーム、言ったように、破損の危険があるから、フルドライブは最終手段ね」
「はい」
「うん」
「特に、なのはちゃんは注意してね。バルディッシュと違って、レイジングハートは打ち合いを想定していないから、フレーム自体の強度は一般的なストレージよりも脆いんだ。強度の順番で言うなら、守護騎士達のレヴァンティンとグラーフアイゼン、フェイトちゃんのバルディッシュ、クロノ君のS2U、そして、レイジングハートになるから」
「エクセリオンモードで戦ったら、レイジングハートが壊れちゃうってことですか?」
「誘導弾やディバインバスターまでなら大丈夫だと思う。だけど、カートリッジを三発以上使って放つ、エクセリオンバスターのフォースバーストや、高速型のスターライトブレイカーはきついかな、フレームを強化する手もあるけど、それだと多分、動きが重くなる」
「今後はそうするにしても、シグナム達と戦うには、痛手ですね」
「そうなんだ、ジュエルシードの時みたいに、大型のモンスターとかを相手にするなら絶対にフレームを強化して安全性を高めた方がいいんだけど、Sランク相当のベルカの騎士を相手にするなら、ちょっとね」
そこに―――
「それ以前の問題として、ヴォルケンリッターを相手にフルドライブを使うのは意味がないな」
一旦座を外していたクロノが戻ってくる。
「クロノ君、お疲れ様」
「ただいまエイミィ。それで、話の続きだが、フルドライブ状態での戦闘はリンカーコアを100%解放し、全ての魔力を注ぎ込む、この意味が分かるかい?」
クロノの言葉に、なのはとフェイトがしばし考え込む。
やがて、フェイトがやや自信なさげに応え。
「えっと、全力全開で行くから、細かい制御が効かない、ってこと?」
「その通りだ、フルドライブ状態で精密な制御を行うのはかなりの訓練を要する。ただ、文字通り“身体で覚える”ことだから仮想空間(プレロマ)での訓練ではあまり意味がない、まずは現実空間において、フルドライブ状態の自分を簡単にイメージできるくらいに練習しなきゃいけないんだが」
【貴女達は魔力が大き過ぎるため、フルドライブの訓練はそう簡単には行えません。魔力量がそれほど多くない方ならば一日おきに行うことも可能ですが、スターライトブレイカーやプラズマザンバーブレイカーなどを訓練で放った場合は、三日間は魔法の訓練禁止となることうけあいです】
さらに、時の庭園に座す管制機からも通信が入る。クロノが兄となり、フェイトがハラオウン家の子となることが確定した今、わざわざ人形をハラオウン家に派遣する必要性を計算し、彼の電脳は否という演算結果を導いた。
他にリソースを割く必要がない状況ならば派遣していただろうが、今は時の庭園の機能のフルに使い、守護騎士包囲網の構築や、負傷した武装局員の治療などを行っており、トールとアスガルドにもそれほど余裕はなかった。それにもう一つか二つ、“極秘計画”も進めているために。
「じゃあ、フルドライブの訓練禁止ってことですか?」
「それ以前に、君達の戦闘能力そのものは守護騎士に比べて劣っているわけじゃない、今回は相性が悪い相手だったが、それでもデバイスが破損したわけでも、怪我したわけでもないだろう、ならば、その差はどこにある?」
「………戦術の、組み立て――――あっ」
「分かったかい」
「フルドライブ状態になっても、判断力や戦術眼が向上するわけじゃない」
「だから、魔力が上がっても、当たらないと意味がない」
なのはとフェイトは、ほぼ同時に同じ結論へと辿り着く。
「魔力の向上は大型魔法生物やロストロギアを相手にする際は大いに役立つ、現に、これまでのフルドライブによって大破したデバイスなどもそういう状況で使われることがほとんどだった。だが、常識的に考えて、市街地で一人の犯罪者に対して収束砲は撃たないだろう」
「確かに……」
「治安維持を目的とする、管理局員には撃てないよね……」
【付け加えるなら、守護騎士達はどうやら対象の殺害が禁じられている模様です。彼女らのデバイスには非殺傷設定が存在しないことをクラールヴィントより確認しておりますので、彼女らはフルドライブでの一撃を人間に対して放つことは出来ない可能性が高い、ただし、100%ではないこともお忘れにならないように】
「ということは、話を整理すると……」
沈黙して話を聞いていたエイミィが、聡明な頭脳によって結論を導き出す。
「ある意味で双方がフルドライブを使えないわけだから、なのはちゃんとフェイトちゃんの課題は、戦術面で守護騎士と対等になることかな、カートリッジロードのタイミングとか、駆け引きとか、仲間との連携とか」
「ううう……」
「やっぱり、そうなるよね……」
極論、フルドライブは膨大な魔力に任せた力押しでしかない。
ジュエルシードなどが相手ならば魔力がものを言うが、人間相手の案件はパワーだけではどうにもならない。状況に応じて、的確な対処を行う能力こそが求められる。
無論、力があるに越したことはなく、引き出しが多くなれば対処法も増える。だからこそ、クロノ・ハラオウンは常に鍛錬を続け、あらゆる技能を修めてきたのだから。
「それで、今回の反省だが、さっきまで君達の“ミレニアム・パズル”における戦闘訓練をもう一度確認していたんだが、トールが用意した仮想守護騎士との戦いにおいて、二人とも見事に一人とだけ戦っていたな」
「う」
「あはは」
なのはが戦った仮想守護騎士は鉄鎚の騎士ヴィータのみ、フェイトが戦った仮想守護騎士は剣の騎士シグナムのみ。
クロノも忙しいどころか多忙を極めていたため、なのはとフェイトとの訓練に割ける時間はほとんどなく、連携の仕方や、戦いの行ける戦術構築のポイントを教えた後は自習に任せていたのだが、少々監督が足りなかった模様。
「まあ、僕も敵の戦略を見抜けなかった以上は偉そうなことはいえないが、自分が定めた相手意外と戦う可能性も今後は考えてくれ」
「ごめんね、クロノ君……」
「以後、注意します……」
自分の監督不行き届きが原因であるため、叱ることはなく注意に留めるクロノ。
「お兄ちゃんだねえ、クロノ君」
「茶化さないでくれ、エイミィ」
そして、クロノが兄なら、エイミィは姉的な立ち位置であった。
【その点につきましては、私からも謝罪する点がございます。今回の件は貴方の失敗ではなく、彼女らの責任でもなく、私の失策であったとも言えます】
「どういうことだい?」
【クラールヴィントの一つを遠隔でレヴァンティンと接続し、タイミングを合わせて強装結界を破壊する。このような戦術はこれまでのヴォルケンリッターの行動からは見受けられませんでした。つまり、フェイトや高町なのはが守護騎士との戦いを通して学び、成長しているように、向こうにも学習されてしまった、ということです】
「……君がレイジングハートとバルディッシュと接続し、さらにはクラールヴィントとも接続したように、か」
【誤算と言えば誤算です。風のリングクラールヴィントはアームドデバイスでありながら、補助、通信、支援、情報処理に長けている。つまり、現存するミッドチルダ式のどのデバイスよりも、管制機トールに近い性質を有しています。彼女に対して“機械仕掛けの杖”を見せてしまったことは、早計でありました】
学習能力こそ、人間の持つ最大の持ち味。
守護騎士の手口を管理局が学習し、包囲網を構築しようとしているように、守護騎士もまた管理局の手法を学び、取り入れる部分は取り入れてくる。
基より、白の国は“学び舎の国”であり、夜天の守護騎士は技術を学び、後代に伝えることをこそ使命とする者達であるが故に。
彼らに対して迂闊に手を晒すことは、相手を増強することにも繋がりかねないことを意味していた。
【剣の騎士が風のリングを持って強装結界内部へ突入、本来不可能であるはずの外部の湖の騎士と綿密な連携を取りながら結界を破壊する。これは、クラールヴィントが提案した手法ではないかと推測します、ちょうど、前回と立場を入れ替えたような状況でしたから、対応策を予め練っていたのでしょう】
「もし自分達が相手の立場となったらどうするか、シミュレーションの基本ではあるな、だが、それを一発で実現するのは並大抵じゃないぞ」
「それを出来るほどの、歴戦の騎士ってわけだ。なのはちゃん、フェイトちゃん、大変だあこりゃ」
「わたし、魔導師歴、半年です……」
「わたしは、えっと………本格的に活動したのはジュエルシードを探しだした頃だから、1年半、くらいなのかな?」
対して相手は、千年を超える時を超え、戦い続けてきた闇の書の守護騎士。
経験の差は歴然であり、何らかの手段を講じなくてはならないのは疑いなかった。
【ただし、こちらに有利な情報もあります】
そこに、管制機が二度の戦いにおいて導いた結論を告げる。
「何か分かったのか?」
【はい、二度目の戦いを観測した結果、確認が取れました。まず、前回の戦いにおいてレイジングハートとバルディッシュが破壊され、新たにカートリッジシステムを搭載して戦いに臨んだことは言うまでもありません】
相変わらずの回りくどい言い方であったが、これがトールである。
【しかし、グラーフアイゼンとレヴァンティンの二機には改善された様子がありませんでした。今回新たに観測されたフルドライブ状態からも、守護騎士が弱点を克服出来なかったことが伺えます】
「弱点、ですか?」
「弱点って、何、トール」
【貴女達を殺さないようにして戦うならば、殺傷設定よりも非殺傷設定である方が有利であることは明白。非殺傷設定ならば、相手を殺さずにフルドライブ状態で戦うことも可能となります。しかし、守護騎士にはそれが出来なかった、なぜか?】
そして、クロノがいち早く解答に辿り着く。
「守護騎士には、デバイスマイスターがいない、ということだな」
【主がそれを担えるならば最上なのでしょうが、管理外世界を本拠地としている時点で、その可能性もほとんどあり得ない。闇の書の力によって、その一部であるデバイスを復元することは可能でも、改良することが出来ない、中世ベルカに則るならば、騎士がいても調律師がいないのです】
それこそが、闇の書の守護騎士が抱える最大の欠点。
中世ベルカの騎士は、調律師が調整した騎士の魂たるデバイスと共に戦うことで最強足り得る。
だが、調律の姫君がいない今、騎士の魂を調整する者がいない。殺傷設定が不利であることを承知しながらも、それを改善することが出来ないのだ。
もし、管制人格が本来の機能を果たしていたならば、デバイスマイスターとして顕現し、騎士達のデバイスに非殺傷設定を搭載していたことだろう。闇の書は敵から知識や技術を蒐集することに長けているのだ。
【そうである以上、彼らの姿も変わりようがありません、グラーフアイゼンは、通常形態と思われるハンマーフォルム、強襲形態と思われるラケーテンフォルム、フルドライブ状態のギガントフォルムの三つの姿を持っています。構成的にはバルディッシュに近いですね】
汎用性が高いアサルトフォルムとハンマーフォルム、近接攻撃用のハーケンフォルムとラケーテンフォルム、フルドライブ状態のザンバーフォームとギガントフォルム。
【レヴァンティンは、通常形態のシュベルトフォルム、連結刃による多種多様な攻撃を繰り出すシュランゲフォルム、そして、遠距離からの最強の一撃を放つためのボーゲンフォルム。ただし、シュベルトフォルムやシュランゲフォルムにおいてもフルドライブは可能であると推察されます】
「だろうな、彼女が剣の騎士である以上、フルドライブが弓だけとは考えにくい。むしろ、あらゆる形態からフルドライブが可能と見るべきか」
レヴァンティンは最も攻撃に特化したデバイスであり、グラーフアイゼンのような結界敷設の補助や、誘導弾の管制機能を持たない。その代り、あらゆる形態からフルドライブを行い、シグナムの全力を叩き込むことを可能とする。
【最後にクラールヴィントですが、こちらは補助や通信がメインですので、直接攻撃能力はほとんどないと考えられます。ただし、ユーノ・スクライアを捕縛したように、敵を抑えることに関してならばかなりの有用性があります、ペンダルフォルムと呼ばれる形態ですが、注意が必要でしょう】
「盾の守護獣はデバイスを持っていないから、その三機か」
【厄介な敵ではありますが、底が見えてきたのも事実です。まだ隠し玉がある可能性は高いですし、特に闇の書には最大の注意を払う必要がありますが】
「………あれか」
クロノが呟くと同時に、ハラオウン家のスクリーンに6人のシャマルの光景が映し出される。
「これ、ほんとに厄介だよねぇ、存在自体が守護騎士とほぼ同じだから、見分けとかそういう次元じゃないし」
【最悪、本物の湖の騎士が破壊された場合、偽物にページが吸収されていき、新たな湖の騎士となる可能性もあります。少なくとも、時の庭園内部ならば、管制機トールにはそれが可能です】
「現在動いている人形を破壊しても、本体が新たにリソースを割けば、それが新たなトールになる、というわけだね」
【それ故、私を止めようと思うならば、まずはアスガルドを止める必要があります。この場合は言うまでもなく、闇の書が該当しますね】
「でも、無暗に破壊することも出来ないんですよね」
「転生機能で、逃げちゃうって」
「どの程度の破壊で転生するかのデータがない上、データ収集のために試すにはリスクが大き過ぎるな」
「かといって、アルカンシェルで吹っ飛ばしたデータじゃあ参考にならないし、ほんと、厄介というかなんというか」
考えれば考えるほど、闇の書の厄介さだけが分かっていく現状。
だがしかし、少年少女達は諦めない、何気に16歳と14歳と9歳と9歳が闇の書への対策を練っているわけであるが、そこはまあ置いておこう、武装局員6名が倒れ、包囲網の再構築の指揮を執っているリンディがこの場に来られるはずもない。
そして、しばらく実戦面での協議が続いたが、やがて、より大きなレベル、そもそもの守護騎士の目的へと議題がシフトしていく。
「あと問題と言えば、守護騎士達の目的だよね」
「そうだな、どうも腑に落ちない、まるで彼らは、自分の意志で闇の書の完成を目指しているようにも感じられる」
【闇の書の副作用によって自分が死ぬことを恐れた主が、可能な限り傷つけないように蒐集を命じた、という線もやや薄まってきましたね】
実はその理由に大方に見当をつけている管制機だが、おくびにも出さない。この辺りは“嘘吐きデバイス”の本領であろうか。
「闇の書ってのは、ジュエルシードみたいのとはちょっと違うんだよね、あたしは、プレシアやフェイトのために集めていたけどさ」
途中から人間形態になって議論に加わっていたアルフが確認するように言う。
「第一に、闇の書の力はジュエルシードのように自由な制御が効くものじゃない。守護騎士達はページを消費することでその力の一部を使っているが、蒐集したリンカーコアを消費するという特性を考えれば、管理局に目をつけられるだけだ」
「これまで、八回の闇の書事件が起きてるけど、どの時も純粋な破壊という結果しかもたらしていない、っていうのは前に渡したレポートの通り、時空管理局設立以前については、ちょっと分からないかな」
「それともう一つは、ヴォルケンリッターの性質だ。彼らは人間でも使い魔でもなく、闇の書に合わせて魔法技術で作られた疑似人格、主の命令を受けて働くプログラム体に過ぎない。と、これまでの闇の書事件に関するデータからは推察出来るんだが」
そう、これまではそうだった。
だからこそ、第九次闇の書事件はこれまでとは全く異なるケースであると言える。
「そうだね、スクリーンで説明すると、って、早っ」
エイミィが行動に出る前に、スクリーンが現れ、守護騎士四人と闇の書の姿が映し出される。
【データ転送、完了しました】
「ありがとう、さて、守護騎士は闇の書に内蔵されたプログラムが、人の形をとったもの。闇の書は再生と転生を繰り返すけど、この四人は闇の書と共に様々な主の下を渡り歩いている」
【ただ、独立した魔法行使が可能である以上、リンカーコアに相当する器官を備えていることは間違いありません。恐らくは、融合機能がないユニゾンデバイス、のようなものと考えられます。そして、同一の“鋳型”から毎回生成されるわけですが、容量の問題から記憶は別の領域に保存されているかと】
「簡単に言えばゲーム機かな、何回プレイしてもゲームの内容は変わらないけど、セーブデータは毎回別々。一回全クリしたからといって、新たにニューゲームすれば最初からってこと」
「ただ、メモリーカードに以前のプレイデータが残っているならば、必要に応じて反映させることは可能かもしれない、ということだ。この場合は何百回ものプレイデータが保存されているハードディスクが別にあるようなものか」
「でも、今回はゲームの内容そのものが変わっちゃった、ってことですか?」
「うん、意思疎通の対話能力は過去の事例でも確認されているんだけど、感情を見せたって例は今までにないの。闇の書の蒐集と主の護衛には必要ないだろうから」
【今までは音声を発しなかったキャラクターが、いきなり音声機能がついた、ということかと。蒐集と護衛のみが機能ならば、確かに人格は必要ありません、ゴッキー、カメームシ、タガーメがいきなり人間のようにしゃべりだしたようなものです】
「うわぁ……」
「うう………」
「何でよりによって、アイツラを例に出すんだい」
【護衛などの機能のみを行うプログラム体、という点でイメージしやすいかと考えました。インテリジェントデバイスは主と同調して機能しますから少々異なります】
余談だが、この例えを後に聞き、時の庭園に攻め込もうとしたヴォルケンリッターがいたりいなかったり。
「ま、まあともかく、守護騎士達は、ええっと、傀儡兵みたいなもので、互いの場所の確認とか、敵の行動状況とかが分かってればそれでいいはずなんだけど」
流石に、中隊長機を例に出せなかったエイミィ。
「で、でも、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし」
「シグナムからも、はっきりと人格を感じたよね、………やられっぱなしだけど」
「うん………最近負けっぱなしだけどね」
彼女らを思い出すと同時に、敗北の記憶が湧きあがってくる。あまり考えない方が良さそうであった。
【それにつきましては、可能性が二つあります。まずは、私のように、限られた条件でのみ人格機能を発揮し、それ以外ではひたすら機能を続ける機械仕掛けとなるようにプログラムされていた場合です、私にとっての主やフェイトが今の守護騎士の主であり、これまで管理局が扱って来た事件における主は、何らかの“条件”を満たしていなかった】
「なるほど、分かりやすいな」
身近な例がいれば、人間というものは連想することが容易となる。
命題に沿って活動を続ける、人工の人格を備えたプログラム体、ここにいる全員はそういう存在をよく知っていた。
【時の庭園を闇の書に例えるならば、管制機である私が主を選びながら次元世界を旅し、選ばれた主には時の庭園の機能が全て与えられ、守護者としてゴッキー、カメームシ、タガーメが付いてきます、最悪ですね】
「それが分かっているなら、あの外見をなんとかしてくれ」
【拒否します。そして、歴代の主のうち、フェイトと同年齢の少女であれば、私は現在使用している流暢な言語機能、もしくはより人間的な汎用言語機能を用いた人形を用い、“家族”であるように接する。それ以外であれば、中央制御室にある管制機として主の命令に従うのみ、といったところでしょうか】
「だけど、闇の書の破壊機能とかを考えると、“家族”ってのはイメージしにくいね」
【そうです、ですから、もう一つの可能性が高いと私とアスガルドは計算しました】
「もう一つ?」
【時の庭園の機能そのものがおかしい場合です。例えば、本来は親を失った子供を探し、保護しながら“親”としての役割を果たすはずであったのに、いつの間にやら次元を巡りながら“ブリュンヒルト”を撃って回る存在となった。そして、かつての名残で、主とした人物が子供の場合は“人格プログラム”が作動する、といった具合ですかね】
「なるほど、だがその場合、主が破壊という機能を行うための部品であることには変わりはないな」
【そうです。ですから、ゴッキーとカメームシとタガーメが、私の現在の機能を知り、何とか主を助けようとしている、とすれば、辻褄は合いますね。無論、狂った私がそれを知れば、中隊長機を処分することになるでしょうが】
「だからなんでアイツラを例にするんだい、守られる子が可哀そ過ぎるじゃないか」
「………無理」
「………死んだ方が、まし」
なのはとフェイトは連想し、その道を選んだ。おそらく、はやてであっても同じ選択をしたであろう。
【とはいえ、所詮は可能性の話、つまるところ、“データ不足”。この仮定を行うならば、まずは時の庭園の本来の機能を知らなければ論じることは不可能です】
「闇の書そのものに関するデータ、つまりは起源を探る必要があるというわけか、ユーノ、どうだった?」
「ええっと、今日が7日だから、明日には手続きが終わって、明後日から探索が始められると思う」
「あ、例の無限書庫?」
「ああ、グレアム提督のおかげで、何とか使用許可が下りた。あそこには質量兵器の製造法まで揃っているからね、滅多なことでは使えない」
「でも、闇の書事件は滅多なことだもんね」
そして、無限書庫に眠る情報が解決の手がかりになるのではないかと、アースラ首脳陣は期待していたが、果たして期待通りの成果が得られることとなる。
「えっと、じゃあユーノ君は明後日くらいからそっちで情報収集、ってこと?」
「そうなるかな、探索の方はお手伝い出来なくなるね」
「そっちは、ギャレット達が大分済ませてくれたから問題ないよ。アレックスとランディからの連絡体制も整って来たし、今回の戦いも、武装局員を即座に派遣出来たという点ではいい感じだし」
「じゃあ、わたし達は………」
フェイトがやや自信なさげに自分達の仕事を問う。
主戦力の二人組は、守護騎士が捕捉されるまで基本的に出番がない。
ただ、二回連続で敗れた身としては、何かこう、今までと違う特訓でもしなければ不安になるだろう。
「学校を休ませるわけにもいかないし、これまで通り、かな」
「そう……だよね、ユーノ君みたいに調べ物とかできないし、アルフさんみたいに結界敷設とかできないし、捜査のお手伝いもできないし、クロノ君やエイミィさんみたいに指揮もできないし」
「うん、何もできないですから、そうします」
ネガティブモードに戻りかけている二人、やはり、負け続けている現状をどうにかしない限り、どうにもなりそうにない。
「フェイトちゃん、今日は一緒に寝よう」
「そうだね、なのは、負け犬らしく、仲良く傷を舐め合おうか」
もはや末期症状に至りそうな感じで、フェイトの部屋に向かおうとする二人。
【お待ちなさい二人とも、こんなこともあろうかと、私が特殊訓練の段取りをしておきました】
そこに、天の声(天井に設置されたスピーカーからの声)が響き渡る。
「特殊―――」
「訓練」
その言葉に、二人の目に光が灯る。
【貴女達の最大の弱点はすなわち経験不足、逆に言えば、それさえ補えば守護騎士とも互角の戦いが可能ということです。なので、密かにベルカ式の高ランク魔導師の方に模擬戦してもらえないかと打診しておいたのですよ】
「いつの間に………って、僕や艦長は何も聞いていないが」
流石にそれは無理だろうと、クロノは思う。
なのはやフェイトは正式な局員ではないため、基本的にアースラを通してしか管理局に関われない。自分や艦長であるリンディを通さずに武装隊と接触するのは不可能に近い。
それに、闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターに匹敵するほどの使い手となれば、本局でも数少ない。遺失物管理部や戦技教導隊、または自分のような執務官などだが、大抵はミッドチルダ式だ。オーバーSランクの古代ベルカ式となれば本当に極僅かだ、近代ベルカ式ならば多少はいるが、それでも少ない。
「それは当然です、なぜなら、“ブリュンヒルト”に関する交渉の際に、地上本部のレジアス・ゲイズ中将に依頼したことですから」
「レジアス・ゲイズ中将………ということは」
その情報から、ある一人の人物が思い当たる。
クロノは直接の面識はなかったが、その人のことは聞いたことがあった。
次元航行部隊の執務官ならば、聞いたことがある地上部隊の人間となれば将官クラスを除けばそれほど多くはないが、彼の勇名はクロノも聞いていた。
そして、古代ベルカ式を扱う闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターに対抗するための技術を学ぶ上で、彼ほどの適任はいないだろう、相変わらず、このデバイスは理にかなった行動しかしない。
なぜなら、彼は―――
【時空管理局・首都防衛隊所属、ゼスト・グランガイツ一等空尉、魔導師ランクはS+、戦闘スタイルは古代ベルカ式、彼も忙しい方ですから一日限りの特別教導となりますが、得るところは多いはず。騎士の戦い方というものをしっかりと学びとって来ましょう、二人とも】
地上部隊で唯一と言える古代ベルカ式のオーバーSランク魔導師にして、30年近い戦歴を誇る歴戦の強者なのだから。