Die Geschichte von Seelen der Wolken


夜天の物語



第四章  中編  守護星の予言





ベルカ暦485年  ギラルドゥスの月  白の国  中央部  ヴァルクリント城  上空





 「シュランゲバイゼン!」


 『Explosion.』


 炎の魔剣レヴァンティンの第二の姿、連結刃が白の国の空を舞い、侵攻してきた敵を跡形もなく粉砕する。


 そう、文字通りの粉微塵。なぜならシグナムが撃ち砕いている敵は、人間ではなく生き物でもなかったから。



 「よもや、飛行型の魔導機械とは…………サルバーン、貴様はどこまで…」


 白の国においてつい先日、調律の姫君と技師達が作り上げた白い翼が空を舞った。それはリンカーコアを持たない人間でも空を飛ぶことを可能とする夢を乗せた希望の翼であるべきもの。


 だがしかし、白の国に飛来した黒い翼は、人を突き殺すための鋭角と、地表を焼き滅ぼすための火薬を積んでいる。それはまさしく魔導の技と科学の技の愛されざる融合であり、黒き魔術の王が作り上げた異形の技術の一端であった。



 (ああ、素晴らしい、これは何とも素晴しい。もし、いつかの私がゆりかごの魔導兵器を基としたガラクタを作る機会があるならば、我が友情の証としてこれを参考にしたいのだが、よいだろうか?)



 遙か遠きヘルヘイムにて、そう嘯く道化が存在したが、そこまではシグナムの知るところではなかった。



 「やはり、奴は白の国の守りを知り尽くしている………」


 現在彼女はヴァルクリント城の上空にて、城を目指して飛来した魔導機械を駆逐しているが、本来ならば彼女が守りに着く必要はないはずであった。


 この白の国は風に祝福された土地であり、魔力素の構成も他の土地とは大きく異なる。つまり、異国の騎士が攻め込んできたところでリンカーコアを十全に働かせることは出来ず、戦力は半減かそれ以下となるのだ。


 ちょうど、遙か未来の第97管理外世界においてユーノ・スクライアという少年が患った機能不全と同じであり、時間をかければ適応可能であるため半年以上は過ごしている“若木”や、白の国で生まれ育った者達には何ら影響はない。


 だからこそ、戦い慣れぬ“若木”達も白の国内部ならば防衛戦の戦力として期待できる。相手が正騎士であろうとも、リンカーコアが機能不全を起こしているならば若木でも互角以上に戦うことができ、かつて白の国で学んだ者が攻め込んでくるという例外を除いて、風の守りは鉄壁であるはずであった。



 「AAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 「改造種(イブリッド)か!」


 だが、黒き魔術の王はそれを知りつくし、白の国を攻略するための戦力を整えた。彼が開発した非人格型融合騎“エノク”もまたその一つ。


 融合騎“エノク”とリンカーコアを融合させた改造種(イブリッド)はどのような環境においても十全の戦闘能力を発揮することを可能とする。ローセスが対峙した“ハン族”の首領であった青年もまたその一人であり、融合騎の暴走によってやがては自我を失い、暴力機構となり果てた。


 ただ、融合適性など考慮されていないため、リンカーコアを持つ者に片っ端から埋め込み、生き残れた者を戦力として投入するといった人道を無視した運用となるが、黒き魔術の王の国ヘルヘイムにおいては死ぬ方が悪いのである。


 機能だけならばローセスの持つ“ユグドラシル”と“エノク”は類似しているが、託された命題はまさしく真逆、調律の姫君の作るデバイスと黒き魔術の王の作るデバイスはあらゆる面で相反する定めに在るのか。



 「レヴァンテイン、叩っ切れ!」

 『Jawohl!』



 “エノク”と融合した改造種(イブリッド)の性能は完全に基となった騎士や魔導師の強さに比例する。ローセスが戦った相手は“ハン族”最強の戦士であったため、強敵足り得たが。



 「次だ、行くぞ」

 『Ja.』



 リンカーコアを持つ人間に融合騎を埋め込んだだけの改造種(イブリッド)が、烈火の将の進行を阻めるはずもない。この程度ならば若木であっても難なく撃退できるであろう。



 さらに、白の国も守りは風だけではない。



 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!!」


 魔を祓うと言われる賢狼の咆哮が響き渡り、ヴァルクリント城を取り囲むように飛来した魔導機械を悉く切り裂き、穿ち、地に落とす。


 だがそれはおかしい、賢狼ザフィーラは陸の獣であり、彼がその魔の領域の速度を発揮できるのはあくまで足場があればことだ。一度限りの跳躍ならばともかく、空を自由自在に跳ねまわり、魔導機械を砕くことはあり得ない。



 しかし、それを可能とするのが白の国の空、いかなる戦火も焦がすこと許さぬ夜天なのだ。



 『オ手伝イシマス、フシュフシュ』

『オ手伝イシマス、フシュフシュ』

 『オ手伝イシマス、フシュフシュ』

 『オ手伝イシマス、フシュフシュ』

 『オ手伝イシマス、フシュフシュ』


 ザフィーラが空中において足場として用いたのは、彼ら、機械精霊。放浪の賢者ラルカスの友であり、彼に名を与えられたという点ではザフィーラの盟友とも言える者達。


 彼らは水と風が合わさる場所に発生する者たちであり、時には不可視の風となり、時には可視の水となる。攻撃する力を持たず、ただ浮いているに過ぎないが、ザフィーラにとっては足場として機能すれば十分。


 さらに、それだけではない。彼らはヴァルクリント城に侵攻してくる敵にとって厄介極まりない“障害物”となる。当然、魔導機械とぶつかれば彼らも砕けることとなるが、機械精霊に死の概念は存在しない。いや、放浪の賢者に言わせれば存在はするが、生命のそれとは大きく異なっている。



 ≪協力、感謝する≫


 『イイエ、友達デスカラ、フシュフシュ』



 彼らは言わば雹のようなもの。時には家屋の屋根を砕くほど大きな塊となることもあるが、雹が砕かれたところで雲はまた生まれ、雨ともなり、雪にもなる、水も風も、決して消えることはないのだ。



 「はあああ!」



 シグナムは彼らの中を一直線に突き進み、改造種(イブリッド)を撃墜する。


侵攻してくる者達にとって機械精霊は障害物となるが、夜天の騎士達にとっては障害物とは成りえない。足場として利用する時は“氷”となり、そうでない時は“風”となる、放浪の賢者ラルカスが白の国に敷いた守りとはつまりそういうものであった。


 ここは風に祝福されし白の国、そこの輝く夜天の空はいかなる者にも穢すこと敵わず、たとえ戦火が及ぶとも、精霊の友なる誇り高き雲がそれを阻む。


 故にこそ、彼女らは雲の騎士団、ヴォルケンリッターと呼ばれる。彼女らこそ、夜天の下に集いし雲であり、白の国を守る不滅の盾、鋭利なる刃なのだから。



 「ザフィーラ、ここを任せた。私は他を殲滅する」


 ≪承知した≫



 嘆きの遺跡よりシャマルの“旅の鏡”によってフィオナの元へ帰りついた彼女らは、白の国が置かれた状況を即座に悟った。


 リュッセとヴィータがそれぞれ強力な敵と相対しており、他の“若木”達もそれぞれの空域で改造種(イブリッド)や魔導機械と交戦中。さらに、陸からも大規模な異形の軍勢が押し寄せている。


 そして何よりも致命的なのは、回復の要である湖の騎士シャマルが潰されたことだ。放浪の賢者ラルカスによってすぐさまヴァルクリント城まで送り届けられた彼女だが、精神に受けた傷は回復魔法では治せず、おそらく三日間は昏睡状態が続くだろう。


 よって、夜天の騎士の選択はザフィーラが城を守り、シグナムが遊撃手として空を防衛、そしてローセスが地上の軍勢を防ぐというものしかなかった。シャマルとクラールヴィントがあればそれぞれと綿密に連携を取りながら有機的に動けただろうが、一度分散すれば後は個々で戦うしかない状況に追い込まれてしまった。



 【ローセス、…………………やはり、届かんか】


 試しに念話を送ってみるが、ローセスからの返事は届かない。距離的に考えれば夜天の騎士達が持つ通信用のデバイスの効果で届くはずなのだが、それを妨害する者がいるのだろう。シャマルがいればその特定も出来たが、現状ではそれは夢物語でしかない。


つまり、まずは城周辺の敵を片付けることとしたシグナムとザフィーラに先駆けて己の戦場、白の国の門たる風の谷へと向かったローセスは完全に孤軍奮闘の状態だ、応援に駆け付けたくはあるが、彼女らにも成すべき役割があり、そう簡単には応援に回れない。


 <唯一の救いは、サルバーンを大師父が抑えてくれていることか>


 敵の中で最も恐るべき存在であるサルバーンが嘆きの遺跡の最下層にて放浪の賢者ラルカスと相対している。ある意味でその戦いこそが全体の趨勢を決すると言っても過言ではないが、もはやそこは自分達が立ち入れる次元の戦いではないだろう。文字通りの意味で次元を超えた場所で戦っている可能性が高いのだから。


 ともかく、今は空の敵を殲滅するのみ。まずは民の安全を確保せねば若木やローセスの援護に回ることも出来ないことを烈火の将は理解していた。










ベルカ暦485年  ギラルドゥスの月  白の国  南部  風の谷



 ―――月が、近い


 日は既に沈み、夜の支配者たる星々と月が輝きを放ち、その恩恵は地上へと降り注ぐ。


 白の国においては夜の訪れは闇をもたらすものではない。存在する木々が、草が、山々が、微弱ながらも昼の光を帯びており、星と月がその光に力を与える。


 それ故、夜の上空で戦う若木達も、夜天の騎士も、盟友たる賢狼も、昼間と変わらぬ速度で飛び回ることが許される。白の国が闇に閉ざされる時とは、夜とは異なる存在が覆い尽くすことしかありえない。



 白の国へと至る唯一の陸路、守りの要とも言える谷間にて、一人の騎士が静かに佇む。



 彼の役割はここを死守することにあり、ただそれだけに専念することが今の彼の存在意義といってよい。


 その地に押し寄せる軍勢の数は目視では数え切れぬほど、津波を思わせるかのような勢いをもって、黒い森がこちらへと進軍してくる。


 だが、それは森ではない。木々を思わせるほどに高く掲げられしは槍であり、それらを持つ者らもまた人間ではあり得ない、黒く重厚な甲冑に身を固めた異形の技術によって歪められし改造種(イブリッド)。


リンカーコアを持つ者が融合騎“エノク”によって空の戦力となったならば、こちらはリンカーコアを持たぬ者らが改造されたもの、それ故に夥しい数を誇り、仮に全滅させたところで補充も容易なのだろう。


 彼らと、盾の騎士ローセスは幾度となく対峙していた。放浪の賢者の供としてベルカの地を巡っている時ですら村を襲う彼らを屠ったことがあり、軍を成す程にまで彼らが完成したのはここ最近のことではあるが、ローセスの騎士としての道は改造種(イブリッド)との戦いであったともいえる。


 同輩であるシグナムとシャマルは人間相手の戦を多く経験していよう。無論、彼にもないわけではないが、それよりも悪鬼羅刹の類いを相手にすることの方が圧倒的に多かったのは事実であり、彼の騎士としての数年間は異形の怪物と戦い続けた日々であった。



 「だからだろうか、これほどの大軍を前にして、全く恐怖の感情が湧きおこらないのは」


 彼自身、それは不可思議な感触であった。確かに自分はここにいるにも関わらず、どこか遠くから自分を眺めているかのような。


 彼はただ一人であり、白の国内部にも空戦を行える敵が侵入している以上、増援の望みは薄い。彼は、己の一人の力のみを頼りに、万に届くかと思われる黒い波からこの谷を死守せねばならない。


 一体一体の力は、さしたるものではないだろう。改造種(イブリッド)と戦って来たローセスだからこそ、押し寄せてくる者達が“ハン族”の者達よりもかなり劣る、いわば一般人に獣を混ぜた程度の存在に過ぎないことが分かる。


 だが、数の暴力というものは英雄の力を無に帰す。どれほど卓越した騎士であれ、真竜を倒す程の力を持とうとも、永遠に戦い続けることが出来ない。瞬間の力はまさに魔の領域にあろうとも、人の身である以上、切られれば死に、力尽きれば倒れるのみ。


 己を待ち受ける未来を明確に頭に映し出しながらも、ローセスの心に畏れはない。



 我は、白の国の盾。敵が押し寄せてきたならば谷を堅守し、最前線で敵を抑えることこそが我が使命、盾の騎士たる証。



 それを誇りに、ローセスはここまで歩んできた。それはこれからも変わらないはずであるのに、なぜ、辿り着いたとすら思うのだろうか。


 辿り着く、それは終着点への到達を指す言葉。


 白の国を守る不滅の盾は、これからも国と、何よりも愛する姫君を守るために在り続けるはずであるのに。



 「そうか……」


 一言呟き、彼はそれほど昔ではない頃の記憶を手繰り寄せる。



古き技を伝えし知識の塔、朱の色に染まりし時

           彼の地に吹く風の中、異形の落とし子の嘆きが響き渡る
 
雲と闇が交錯し、雪を覆いし守護の星は瞬き墜ちれど

           墜ちたる欠片は蒼き盾、昇る紅の明星に託される




 放浪の賢者の予言の詩を思い出し、ローセスは後ろを振り返る。


 常時ならば若干の青みを含んだ薄闇色、そう表現できる白の国の空が、朱に染まっている。それが、星光の殲滅者と恐れられる少女が放った光によってもたらされたものであることまでは彼に知りようがなかったが。


 ローセスが守るこの場所は谷間であるため最も強い風が吹く。故にこそ風の谷と呼ばれ、今まさに彼は風の中にいる。


 さらに、押し寄せる軍勢は異形の落とし子。鬨の声とも嘆きの声ともつかない絶叫が、谷間へと響き渡る。


 まさに今こそ、夜天の雲と深き闇が交錯する時。そして、白の国の王家の紋章は雪、それを受け継ぐのは、彼が愛するただ一人の女性しかあり得ない。




 「雪を覆いし、守護の星は瞬き墜ちれど、か」



 守護の星が墜ちる。それが何を示すかは考えるまでもないことであるが―――



 「感謝します、大師父。俺が、彼女を守る盾に、白き雪を覆う守護の星であれたことを、この世界そのものが認めてくれた。これほどの誇りはありません」



 彼はまさしく、骨の髄まで騎士であった。


 例え生き永らえようとも、主人への忠誠を尽せぬ生ならば、そんなものに意味などない。無論、ここで果てるつもりなど毛頭ないが、自身の行く末よりも、フィオナという女性を守る守護の星であれたかどうかの方が、彼にとっては重要なのだ。


 ヴィータが時折、騎士は狂った理論で動いていると言うのも無理はない。彼らの頭はまさしく捩じ曲がっており、常人から見れば発狂しているともとられるだろう。


 賢狼たるザフィーラが、“騎士とはかくも興味深い”と評し、ローセスと共に戦って来たのも、そんな不可思議な精神性を持つ存在に、何かを感じたからであろうか。



 「さあ、行くぞ、アイゼン」

 『Jawohl.』



 だが、そんな感傷も戦いが始まれば頭の片隅にも残りはしない。


 戦場に恐怖は不要、躊躇いも不要、ただ敵を滅ぼし、主を守り通すための戦意だけをぶつけ合う。



 しかし



 「「「「「「「「「「「「「「「 AAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!! 」」」」」」」」」」」」」」」



 それは、この時代の騎士同士の戦いであればの話、元より慈悲はおろかまともな思考能力すら持たない改造種(イブリッド)を相手にした戦は、誇りも何も無き殲滅戦にしかなりえない。


 彼らは獣ですらなく、獣以下。野生の獣が村を襲うことはあるが、彼らの多くは火を恐れ、人間が強大な力を持っていることを知れば攻めることなどせず、不利を悟れば逃げだす。


 だが、改造種(イブリッド)にはそれがない。恐怖という感情、生存本能というものが破綻した彼らは自らの肉体を顧みることすらせず、自らの身体が崩壊することになろうとも破壊を続ける。


 その在り方は、命じられた作業を実行するだけの機械ですらない。彼らは自分達が何を成すべきかすら理解出来ぬまま、ただ暴れ狂い、その命を散らすだけの存在。



 「なんと………哀れな」

 『Ja.』


 その想いを禁じえない。あと数秒で彼の意識は戦闘へと切り替わり、彼らを殲滅する存在へと変貌することとなるが、その前に彼らを偲ぶことは傲慢ということは出来ないだろう。


 改造種(イブリッド)と戦い、屠るたびに彼は思うのだ、一体彼らは何を想い、何を求めて人間の身体を捨てたのか。


 ヘルヘイムの軍勢に囚えられ、望まぬままに改造されたのか、復讐に猛り、力を求めて受け入れたのか。それとも、守りたいものがあり、他に方法はないと信じて決断したのか。


 それらの想いを全て飲み込んで、戦争というものは死を与えていく。その受け皿となることこそ騎士が在る理由だとローセスは考えるが、思考は常に止めず、より良い道はないかと考え続けることを忘れてはならない。


 そうして、自問自答を繰り返しながらより良い明日のために歩みを進めることこそが白の国そのもの。国土ではなく、建物ではなく、その想いを次代へ伝えること意志が白の国なのだ。


 彼がここで果てようとも、後を受け継ぐ者がいる。夜天の誓いは、白の国の意志は、滅びず残る。その想いとて長き時の流れによっていつかは忘れ去られるだろうが―――



墜ちたる欠片は蒼き盾、昇る紅の明星に託される



 少なくとも、盾の騎士ローセスの後を継ぐ者は、確かに存在しているのだ。



 「縛れ――――――――鋼の軛!」

 『Explosion.』


 白の国の門たる風の谷、盾の騎士と鉄の伯爵の、ただ二人による戦いが、始まった。













ベルカ暦485年  ギラルドゥスの月  白の国  中央部  上空




 【騎士シグナム、聞こえますか?】


 【リュッセか】


 朱に染まる空の下、シグナムは魔導機械や改造種(イブリッド)を薙ぎ払いながら無人の野を駆けるかのように突き進み、ヴァルクリント城を中心とした一帯の制空権を完全に取り戻していた。


 白の国の民の多くは城に避難しており、年長者の若木四人をそちらへ配し守備に専念させた。これで、いざとなればザフィーラが機動戦力として動くことも可能となる、最もそれは城の防備を危うくするため最後の手段とも言えるが。


 年中者の若木達はシグナムの指揮の下、二人一組で迎撃にあたり、効率よく敵を撃破している。通常の魔導機械や改造種(イブリッド)ならば彼らだけでも問題はないが、敵がそれだけではないこともシグナムは悟っていた。



 【こちらは現在、人造魔導師と交戦中です。他の者らが戦っている魔導機械や改造種(イブリッド)と異なり騎士を仕留めるために調整された存在、敵の主戦力かと】


 【なるほど、お前は戦況をどれほど掴んでいる】


 【年中組が空の防衛にあたっていることしか、他は?】


 【年長四人はザフィーラと共に城の防衛にあたっている。年少組は調律師や技師達と連携しながら地上の拠点を守ることに専念させた、今のあいつらの技能ではまだこの空に出るには足りん】



 カートリッジが存在するように、魔力を物体に込め、リンカーコアを持たない者でも簡易なものならば魔法を発動させることは可能となっており、白の国はその最先端を走っている。


 特に、その扱いに長けている魔導技師や調律師達は、設備と器具さえ揃っていれば防衛戦に限り騎士と対等の働きをすることも可能だ。空戦は無理があるが、地上を守るだけならば彼らだけでも何とかなる。結界発生器や魔法石と呼ばれる品々は湖の騎士シャマルを筆頭に日々作られ、有事に備えて蓄えられているのだ。


 飛来した魔導機械がかなりの量の火薬や、後の時代に焼夷弾と呼ばれるものの原型を落としているが、建物の多くが焼けていないのは彼らが防御結界を発生させる装置などを的確に運用しているからこそ、白の国はそれ自体が巨大な城砦であるともいえる。


 【では、風の谷が破られ、地上の軍勢が押しよせない限りは、僕達は敵の主戦力を相手にできるということですね】


 だが、空から降ってくる攻撃だけならともかく、地上戦力が現れれば彼らではどうしようもない。それ故、ローセスの役割は重大であった。


 【そうなるが、シャマルがサルバーンによって潰されたことを念頭に入れておけ、大師父によって城に運ばれたが意識不明だ。サルバーンは大師父が抑えてくださっているが、我々が傷を負えば即座に癒すことが出来ないことに変わりはない】


 【騎士シャマルが……】


 彼女以外にも回復魔法を扱える者、もしくはそのような設備はある。


 だが、それらはあくまで長期的に時間をかけて治療するものであり、戦闘中に重傷を負った者を即座に治療し、戦線復帰を可能となせるのは湖の騎士シャマルと風のリングクラールヴィントしかあり得ない。放浪の賢者ラルカスにも可能ではあるが、彼は嘆きの遺跡の底で黒き魔術の王と相対している。


 つまり、白の国の主戦力であるシグナム、ローセス、ザフィーラ、リュッセ、ヴィータが腹を貫かれるなどの重傷を負えば、その時点で戦力の補充は絶望的となる。唯一それを成せるシャマルが最初に潰されたことはあまりにも痛い。



 【お前の方で得た情報はあるか?】


 【はい、僕が戦っている相手はサルバーンが作り出した人造魔導師で、その教育担当が“破壊の騎士”サンジュであり、彼女の遺伝上の父は雷鳴の騎士カルデンであり電気変換の資質を有しています。彼女のデバイスもカートリッジとフルドライブを搭載しており、また、ヴィータが対峙していると思われる相手も同様の人造魔導師で、そちらの教育担当はサルバーンの片腕、“蟲毒の主”アルザング】


 【そうか、サルバーン配下の中で名の通っている者と言えば、アルザング、サンジュ、ビードなどだが、彼らと人造魔導師が主力、と考えられるな。まだ隠し玉がある可能性はあるが】


 未だ目覚めぬ“闇統べる王”、その存在を知るわけではないが、そういう者がいてもおかしくないと察するシグナムの勘は、流石に歴戦の強者ものであった。


 【この子は、僕が仕留めます。騎士シグナムはヴィータの方へ向かってください、向こうの敵はこちらより強力で、ヴィータには念話を送る余裕もなさそうなんです】


 【…………分かった。だがお前も油断はするな、特にお前の相手の教育担当でもあるという破壊の騎士サンジュは、暗殺に長けるなどという話も聞いたことがある】


 暗殺、それは破壊の騎士などという異名にはなかなかそぐわない技能であるが、誰がどのような技能を持っているかは異名によって決まるものではない、そも、盾の騎士ローセスが鉄鎚を振り回す時点でおかしいのだから。


 【了解しました。周囲には気を配ります】



 そうして、念話を終えるシグナムだが、その間にも魔導機械を破壊しながら高速で移動を続けている。


 シグナムが向かう先はヴィータが交戦している空域であるが、そちらを優先した理由にリュッセには戦いながら念話を行える余裕があったこともある。決して楽観は出来ないが、ヴィータよりも余裕があるのは確かなのだから。



 「待っていろ、ヴィータ」



 そう呟き、シグナムが飛行速度を最大にした瞬間――――



 「!?」


 シグナムの身体を戦慄が走り、彼女は己の直感に従って回避行動をとる。


 それまで彼女が進んでいた軌道を追うように、灰色の魔力を纏った黒い矢が駆け抜け、シグナムはほんの僅か判断が遅れていたら自分が墜とされていたことを悟る。


 「何者だ」


 レヴァンティンを油断なく構え、空中で静止しながらシグナムは周囲に視線を走らせ、魔力を感知する。


 しかし、先程の矢を放った射手の姿は見当たらない。あれほど魔力を込めた一撃ならば、射手の魔力を掴めないということはないはずなのだが。


 『Ich kann keinen Gegenstand spuren.(対象、感知できません)』

 「………」


 レヴァンティンの声だけが響き、彼女の周囲に動きは見られない。ヴィータの下へ救援に向かわなければならない以上、このままというわけにもいかないが、迂闊に動くことも出来ない。


 「レヴァンティン」

 『Jawohl.』


 よって、彼女は一種の賭けに出ることとし、主の魂である炎の魔剣もその意思を汲み取り即座に行動に移る。


 『Schlangeform.(シュランゲフォルム)』


 「シュランゲバイゼン!」


 カートリッジが吐き出され、レヴァンティンが連結刃へと変形、炎を纏った刃が周囲の空間を蹂躙していく。ここまで飛行する間にカートリッジの補充は済ませているためまだ弾装にも余裕はある。


 先ほどの矢を放った射手はいかなる手段かは分からないが確実に周囲に潜んでいる。研ぎ澄まされた彼女の感覚は敵の“呼吸”か“戦意”とでもいうべきものを捉えており、敵が離脱したわけではないことを理解していた。


 そして、敵に自分を仕留める意思があり、牙を研いでいるならば―――



 「はあっ!」

 『Ich verhaftete Sie!(捉えました!)』


 第二の矢が、レヴァンティンが遠くまで伸びきった隙を見逃すはずもない。


 連結刃の隙間を縫うように飛来した矢を、シグナムはシールドを纏わせた鞘によって迎撃、鞘で防ぎ、返す刀で反撃することは彼女の得意とするところである。


 「そこか!」


 矢が放たれた位置を瞬時に見極め、連結刃が殺到する。シグナムが防ぐと同時にレヴァンティンが捕捉する連携には一部の隙もない、手ごたえこそなかったが、敵の魔力の反応は確かに掴んだ。



 「流石だ、烈火の将。私の固有技能(インヒューレントスキル)、“幻惑の鏡面”を容易く見破るとは」


 それまで誰もいなかったはずの空間に、中肉中背の黒衣を纏い、弓を手に持った男が現れる。騎士甲冑らしきものを纏っていないところから見るに、騎士ではなく魔術師であろうか。


 ただ、自らの能力について語り聞かせたことから、この人物が名の通ったベルカの使い手であることは判別できる。この時代においては自身の能力とは隠すものではなく、堂々と言い放つことが多い。相手に知られてしまうだけで対応策が練られるものなど評価するに値せず、例え知られようとも意味をなさない能力こそ強者の技。


 雷鳴の騎士カルデンや烈火の将シグナムの勇名は戦闘スタイルと共にベルカの地に鳴り響いているが、彼らの能力を知ったからといって、破れるものではない。そして、シグナムと相対する人物もまた自身の能力が知られたところで破れるものではなく、戦術と応用によって敵の対抗策を打ち破るという自信があるからこそ堂々と宣言するのだ。


 自身の能力が知られることを恐れる臆病者など、いくら魔力が高くともベルカの地では讃美されることはない。それは黒き魔術の王にとっても同様であり、むしろ彼はそのような軟弱者は容赦なく焼き尽くす存在であり、その配下たる者らにも軟弱は許されない。中世ベルカとは、そのような時代なのである。



 「貴様が、“蟲毒の主”アルザングか」


 そして、シグナムはこの敵の異名を即座に把握することができた。先程レヴァンティンの鞘で弾いた矢が彼女の騎士甲冑の一部をかすっており、その部分が腐食している。腐り落ちる前に彼女の“炎”によって焼き切ったため広がることは避けられたが。


 烈火の将が“炎熱”の魔力変換を行うならば、その存在は“毒”の魔力変換を行う、彼の異名はその能力と行動理念の両方を表す唯一無二の称号でもあった。



 「ほう、彼の誉れ高き烈火の将に覚えていてもらえたとは、嬉しい限りだ」


 「見たことはないが、状況を考えれば辿り着く」


 リュッセからの情報で、ヴィータが戦っている相手はサルバーンの片腕、アルザングが教育担当であった人造魔導師であることが分かっている。そして、そこへ向かおうとしていたシグナムを遮る形で攻撃してきた存在として最も可能性が高いのが誰であるかなど考えるまでもない。


 「紫電一閃!」


 そして、サルバーンが嘆きの遺跡にいる現状、この男こそが白の国攻略の司令官である違いない。仮に司令官が別にいたとしても、この男がサルバーン配下の中で最強の存在であることは疑いない以上、シグナムはここで全力を賭して仕留めるつもりでいた。


 「グアサング!」


 だが、烈火の将の一撃を、蟲毒の主は瞬時に顕現させた剣でもって正面から防いだ。ベルカの地を見渡してもこれを可能とする騎士は多くない、雷鳴の騎士カルデンや盾の騎士ローセスならば可能であろうが、この男は本来接近戦を主眼とするものではない魔術師なのだ。


 さらに、先程の矢と同じく、その剣にはあらゆる存在を蝕み殺す“毒化の魔力”が宿っている。もし、シグナムが持つ剣が炎熱変換された魔力を宿した炎の魔剣レヴァンティンでなければ、斬撃を放った側の剣が砕ける、というえ結果となっていただろう。


 「レヴァンティン! 撃ち砕け!」

 『Explosion!』


 炎の魔剣レヴァンティンがさらにカートリッジをロードし、刀身に炎熱変換された魔力が迸る。

 

 「ぬ、ぐう―――」


 炎熱と毒の魔力はほぼ互角の相性であり、蟲毒の主の持つ剣型デバイス、グアサングもレヴァンティンに劣らぬ強度を持つ優れたデバイスではあったが、烈火の将と炎の魔剣の連携に抗しえるほどその主は近接戦闘に特化した人物ではない。


 ならばこそ、彼もまたこの窮地を凌ぐための策を予め用意していた。烈火の将とまともにぶつかれば、魔術師たる自分に勝ち目がないことなど分かりきっていることだ。



 「ちいっ!」


 自身の後方から襲い来る脅威を察知し、シグナムはアルザングとの距離を離す。この相手を前に距離を取ることは得策ではないが、そうせざるを得ない状況である以上は是非もない。



 「よく来た、三号(ドライ)、四号(フィーア)、五号(フェンフ)」


 彼が話かけた先には、三人の子供が空に静止し待機していた。うち二人は10歳程度の少年であり、もう一人は同じ程度の少女。持っているデバイスは少年二人が槍であり、少女は杖。


 だが、その身からは強力な魔力は感じられる。シグナムが現在対峙している蟲毒の主アルザングから感じられる魔力と比較しても遜色ないほどだ。もっとも、強力な魔術師ほど力を隠すことにも長けるためそのまま判断できるものでもないが。


 「人造魔導師か」


 「如何にも、僕はナンバリング03」


 「俺はナンバリング04」


 「わたしはナンバリング05」


 人道魔導師の少年らはそれぞれに応えるが、その声には感情らしきものがほとんど感じられない。だが、その理由など対峙する男の異名を考えれば即座に思い当たる。



 「これが、貴様が“蟲毒の主”と呼ばれる由縁か。蟲毒の壺の管理者よ」


 蟲毒の壺


 それは次元世界、国家を問わず、あらゆる文明においても共通して存在する強者の育成法。数多くの蟲を壺に押し込め、最後の一匹になるまで殺し合いをさせる、そして、生き残った者は強力なる尖兵に仕上がる。


 黒き魔術の王の国、ヘルヘイムではこれが日常であり、強者は這い上がり、弱者はただ死ぬのみ。ならば、人造魔導師の子供達だけがその法則が適用されないはずもなく、その地獄の法の管理者こそが、執政官を兼ねる“蟲毒の主”アルザング。ヘルヘイムは国家とは名ばかりの、巨大な蟲毒の壺なのだ。



 「そういうことだ。何か不服でもあるかね」


 「不服しかないが、一つ問う、名を与えず番号で管理するのはなぜだ?」


 「名とは、その存在そのものを表す、力有る言葉の形、古代ベルカのドルイド僧は名を与えることで真竜すらも友とした。ならば、駒を縛り、向上心を与える要素としてこれほど適したものはあるまい」



 そして、蟲毒の主は自らの作品達を見やり―――



 「我らの前にいる者こそ、誉れ高き烈火の将。この者を討ち取れ、方法は問わぬ、見事討ち取りし者には名と力を与えよう」


 「――了解!」


 「我が槍に懸けて!」


 「命のままに!」



 瞬間、人形のようであった少年たちに生気、いや、妄念とでもいうべき感情が立ち上る。


 人造魔導師として作られ、碌に知識も与えられぬままに蟲毒の壺へと堕とされ、精神を殺しながら力を得る以外に生きる術を持たなかった少年達は、“己が在る証明”、“存在意義”に飢えている。


 だが、彼らはその飢えの正体に気付いていない。自分達が本当に求めているものを知らぬまま、人造魔導師の子らはただ命じられる通りに殺戮を繰り返す。



 「それが――――貴様が司る法か!」



 そして、烈火の将シグナムにとって、蟲毒の主アルザングの手法は決して認められるものではない。若い命を消耗品とし、殺し合わせ、生き残った者にのみ名を与え支配する。それは、白の国の若木達を慈しみ育てる夜天の騎士と完全に真逆の在り方だ。



 「否定したくば、より強大なる力を持って成して見せよ! 力こそ真理!」



 だが、蟲毒の主にも忠誠を誓う主があり、彼の道こそが唯一絶対と信奉している。


シグナムが白の国に仕え、調律の姫君フィオナが歴代の王より受け継ぐ理念の下、若木達を育成するように、アルザングはヘルヘイムに仕え、黒き魔術の王サルバーンが示す理念の下、蟲毒の壺の蟲達を育てあげる。


 シグナムが若木達に愛情を持つならば、アルザングもまた蟲達に愛情を持っている。そのベクトルは致命的なまでに交わるものではないが、シグナムの首を獲るべく襲い来る少年達がただの“人形”ではないことは明らかであった。


 ある意味で、ヘルヘイムには無意味に死ぬ者は存在しない。貴族の気まぐれでただ命を奪われるような不条理はあり得ず、どんな命も残らずただ一つの法の下、平等に強者の糧となる。道端で飢えて死ぬ者らすら、骨の一片まで喰い尽され、異形の者なる改造種(イブリッド)の動力源として機能するのだから。



 “弱肉強食”、それが蟲毒の壺の唯一にして絶対の法則。その管理者こそ蟲毒の主アルザングであり、人造魔導師の少年達もその法則に沿って生み出された掠奪者の一員である以上、意思なき人形ではあり得ない。そも、己の意思がない者など強者の糧にしかなり得ぬ国なのだ。



 だが、アルザングはサルバーンをこそ絶対と信奉しており、彼への忠誠に比べれば蟲達への愛など比べるべくもないことも確かであった。


通常の軍とはまるで異なるが彼は司令官であり、白の国の攻略、さらにはその後に広がる覇業のためならば、蟲達を消費することに躊躇いはない、が、決して無駄にするつもりもない。弱者を糧とするならば、勝ち続けることこそが強者の務め、それでこそ糧となった者らにも意味を与えることが出来る。


 サルバーンがもたらした生命操作技術を基に、アルザングは数多くの人造魔導師を作り出し、形になった者達を蟲毒の壺へと放り込むことで三号(ドライ)から九号(ノイン)までの七体の“成功作”を作り上げた。番号が若いほど性能も高くなっており、それもまた向上心を高めるための処置である。


 しかし、サルバーン自身の手によって作り出され、名を与えられた二体、原初の人造魔導師シュテルと現状では最後発のレヴィは生まれながらにして凄まじい才能を秘めていた。蟲毒の壺に放り込んだところで結果が見えており、その必要がない程に。


 よって、シュテルは一号(アイン)であり、レヴィは二号(ツヴァイ)。人造魔導師の指揮権は二号を除いて彼にあるが、最後発のレヴィが容易く自分の作品を凌駕した事実は、自身と主君の圧倒的なまでの差を意識させずにはいられない。



 <いつかは、あの方と同じ位階へと、私こそがあの方の後継者だ>



 しかし、諦めることなど母の胎内に置き忘れたかのように高みを目指すアルザングの在り方こそ、彼がサルバーンの片腕と呼ばれる由縁であった。


 言葉に出来ぬほどの強い意思を秘めたまま、彼は己の固有技能“幻惑の鏡面”を発動させ、その場を離れる。シグナムが察したように彼の役割は白の国攻略の司令官であり、この戦場だけにかかずらっているわけにはいかないのだ。


 ただ、この攻撃で全てを決するつもりは彼にもなく、可能ならば攻め落とそうと思っているが、白の国の防衛機能や夜天の騎士の強さを探ることも目的である。


 彼らの目標は白の国で終わりではなく、ここは始まりに過ぎない。その覇業はベルカの地全てへ槍を定めており、そのためには力が必要不可欠、白の国から学びとるべきものがあれば、彼はそれを貪欲に吸収するつもりでいた。


 尽きぬ野心と向上心、それこそが黒き魔術の王サルバーン第一の臣下である証であり、故にこそサルバーンもまた唯一アルザングに“目をかけている”。



 そして―――



 「恨みはないが、お前達を救ってやれるほど、私の腕は長くない」



 白の国の烈火の将は、己の首を狙って襲い来る哀れな人造魔導師達を、全力を以て迎え撃つ。


 どのような事情があろうとも、戦う意思を持って戦場に臨んでいるならば、加減することなく全力で相手することが、彼女の騎士道なのだから。


 「行くぞ、レヴァンティン!」

 『Jawohl, Mein Herr.(了解、我が主)』




 朱に染まる空の下、新たなる戦いの火蓋がここに切られた。




あとがき
 守護騎士達は、過去編と現代編では異なる立場であり、異なる考え方を持っている、という前提で話を進めています。以前に書いたように、時代が変わり、国が変わり、人々の心が変われば騎士の在り方も不変のものではいられません。よって、中世ベルカの時代に白の国で生まれ育った夜天の騎士達には彼らの考えと生き様があり、同じ価値観で生きてきた主や民、国のために生きるからこその選択であり決断があります。
対して、現代編では守るべき主は現代の日本で生まれ育った少女であり、その価値観は中世ベルカの王族とは当然異なります。殺傷設定が当たり前であり、直接的に武器を持って殺し合うベルカの時代に生きた騎士と、平和な現代を生きる少女のために在る守護騎士は、例え同じ人物であっても、その在り方は異なるものとなるでしょう。    
 はやてに古代ベルカより伝わる騎士の価値観を押し付けても、それは現代を生きる彼女のためにならないのは明白ですから、変わるのは守護騎士の方であり、シグナムも、シャマルも、ヴィータもザフィーラもそれぞれ芯は変わりませんが、歩む道は過去とは異なっていきます。その違いを明確に書くのはおそらくStS編となるでしょうが、そこも書きたい部分の一つではあります。
 ただし、デバイス達は変わりません。グラーフアイゼンも、レヴァンティンも、クラールヴィントも、主の魂であり続けるその在り方は、過去でも現代でも何も変わらず、彼らは主のために機能します。変わる人と、変わらぬ機械、しかし、その絆は不変のものである。それがA’S編で書きたいことの主眼でもあります。拙い作品ですが、お楽しみいただければ幸いです。






                         
                        △△△△
                      △△△△△△△△ 
                    △△△△    △△△△△
                 △△△△          △△△△△
               △△△△               △△△△
              △△△                   △△△△
            △△△  シュテル                  △△△
           △△△   ヴィータ                    △△△
         △△            アルザング              △△△
        △△                                 △△△
       △△      ドライ・フィーア・フェンフ         ズィーベン   △△△
      △△            シグナム                      △△△
    △△                                         △△△
   △△                                           △△
  △△                    フィオナ                     △△
 △△                    ザフィーラ                リュッセ △△
 △△                                         レヴィ △△△
  △△                                           △△△
  △△△     ゼクス                                 △△△ 
   △△△                                       △△△
    △△△                          アハト        △△△
      △△△                                  △△△ 
       △△△                                △△△
        △△△            ノイン              △△△△
         △△△△                         △△△
           △△△△                     △△△
             △△△△                 △△△△ 
               △△△△             △△△△
                  △△△△       △△△△
                    △△△△△ △△△△
                      △△△ △△△
                        ローセス












inserted by FC2 system