Die Geschichte von Seelen der Wolken
夜天の物語
第四章 後編 白の国の戦い
ベルカ暦485年 ギラルドゥスの月 白の国 東部 上空
薄闇色の空、僅かに朱に染まる白の国の高き場所にて、青い光と白い光が交錯する。
「何で、何でだ!」
「………」
シグナムと念話による通信を交わしてよりおよそ数分、白い魔力光を纏わせた少年、リュッセが躍る戦場は徐々に収束へと向かいつつあった。
「くっそ、光翼斬!」
「アスカロン」
『Panzerschild.(パンツアーシルト)』
繰り出される攻撃をリュッセは必要最低限の動作で防ぐ、フルドライブ状態に移行したレヴィの魔力とバルニフィカスによる魔法攻撃の威力はまさしく一流の騎士のそれであったが、あくまで威力に限った話。
<確かに、重く、速い、だがそれだけだ>
リュッセに一定以上の魔力と高度な戦闘技能が備わっていなければ瞬く間に飲み込まれていたであろうが、幸いにも彼の両親もまたミドルトンの騎士であり、リュッセの魔力量もかなり多い方である。
そして、彼の技量は既にシグナムのそれと比べても遜色ない位階に達している。その上、レヴィのオリジナルといえる雷鳴の騎士カルデンの強さを知り、彼の指導を受けたことがあるという経験が勝敗の天秤を傾かせていた。
<まあ、射撃などに関する技能は母方譲りなのかもしれないが、近接における一撃と魔力量、何よりもあの高速機動と電気変換資質は間違いなく彼のものだろう。ついでに、気質も>
もし、雷鳴の騎士カルデンに娘がいたならば、この子のような性格になっていたのではなかろうかと思わなくもない。逆に言えばレヴィに足りないのは経験だけであり、それが補われればカルデンを上回る存在となれる可能性すら秘めているのだ。
「くそお! 何でだ! 何で当たらない!」
当たっていないわけではないが、有効打となっていないのは事実であった。とはいえ、リュッセはレヴィに一撃も与えておらず、互いのダメージで測るならば圧倒的にリュッセが劣勢なのだ。
しかしそれは、リュッセの攻撃をレヴィが悉く躱し、逸らしたということを意味しない。そもそも、リュッセはまだ一撃足りとも攻撃を放っていないのだ。
「どうした、君の全力、フルドライブとやらはその程度なのか?」
「何だと! 言ったなこの野郎! 天破・雷神鎚!」
リュッセはただ敵の攻撃を防ぎ、言葉による挑発を繰り返しているだけだ。一見、何の効果もないように見えるが、既に効果は表れ始めている。
<高速機動型は最も魔力の消費が激しい。いくら人造魔導師であり、通常を遙かに超える魔力を備えていようともまだ子供だ、限界はそれほど遠くはないはず>
守りに徹し、挑発を繰り返し、相手のエネルギー切れを狙う。それがリュッセの戦略であり、同時に唯一の勝機でもあった。
現実の問題として、レヴィの飛行速度はリュッセの遙か上をいっており、彼の攻撃では捉えられない。技量だけならかなりの域に達しているリュッセであるが、高速機動に関してはまだシグナムには及ばず、彼女ならば雷鳴の騎士カルデンとも対等に渡り合えるが彼にはまだ不可能な芸当だ。
故に彼は右手にアスカロンを、左手に鞘を構え、あらゆる攻撃に対処できるように備えながら空中で静止していた。相手が速いならば、こちらは早さと緩急で勝負、常に高速で動きながら技を繰り出すレヴィよりも呼吸を整え、タイミングを計って繰り出すリュッセの防御が技の出としては早く、さらには静から動という緩急も加わる。
「あたりさえすれば―――」
それはほんの微細な要素ではあるが、その僅かな糸を手繰り寄せ、リュッセは能力的には勝っている相手と互角どころか精神的には圧倒的に優勢に戦いを進めている。
リュッセの能力はオールマイティであり、シグナムやヴィータのように爆発的な攻撃力はなく、ローセスのような強固な守りもない。だがそれ故に無限の応用性を持ち、優れた戦術眼が組み合わさればあらゆる敵に勝つことが出来る。早い話、リュッセには苦手な敵がおらず、得意な敵は今まさに対峙している直情型であった。
「あててみろよ」
これまでとは口調を変え、小馬鹿にするような口調をあえて使うことでリュッセはさらに挑発する。レヴィの魔力も大分減ってきているはずだが、フルドライブ状態での猛攻を防ぎ続けてきたリュッセの消耗もそれなりにある。
「こんの…………僕を本気で怒らせたことを後悔するがいい!!」
その瞬間、バルニフィカスが四発ものカートリッジをロードし、レヴィの身体に爆発的な魔力が集中する。
さらに、それだけではなく――――
<これは、天候操作>
「僕が雷刃の襲撃者と呼ばれる由縁、喰らい知れ!」
自称ではあるが、レヴィという少女の特徴をよく表している異名であるのは間違いなかった。ただ、ベルカの文化では他者から自然と呼ばれるようになった異名こそ価値あるものとされる。
シグナムの“烈火の将”やカルデンの“雷鳴の騎士”といった異名は誰かがそう呼び始めたことによって広まったもの。ローセスの“盾の騎士”は主君より与えられた二つ名だが、既にそれは白の国の外部までも知られている。
そして、その最たるものは“黒き魔術の王”であり、ヘルヘイムの法を司る“蟲毒の主”や数多くの村や街を容赦なく焼き滅ぼしたことから恐れと共に呼ばれる“星光の殲滅者”なども同様である。
「アスカロン、大技が来るぞ。準備は出来ているな」
『Es wird vervollstandigt.(完了しています)』
自身の魔力のみならず、自然の雷すらも味方につけて放つ一撃。その威力は恐らくシグナムのシュトゥルムファルケンに匹敵する。
当然、リュッセとしては躱すか、放たれる前に倒すかの二択に絞られるわけだが、速度の差を考慮すれば後者が不可能であるのは自明の理であり、前者もまた攻撃範囲を考えれば極めて難しい。
だがしかし、リュッセにはそれを成す策があり、彼の魂アスカロンもまたそのための準備を進めていた。
「む――」
射出直前であったレヴィは、突如発生した光に瞼を閉じる。もっとも、目が見えずとも彼女の魔力感知能力はリュッセの魔力を捉えている。
「目くらましとは、浅知恵だな。そんなもので雷神の化身たる僕の眼から逃れられると思ったか!」
リュッセがいた付近から白色の光が迸っているが、レヴィは己の目に特定の魔力光を遮断する術式を走らせ、光の中心から逃れるように飛びだす影を確実に捕捉する。
「終わりだ! 雷刃滅殺極光斬!」
リュッセの移動速度はレヴィの予想よりも速いものであったが、収束砲と同等の威力を持つこの一撃から逃れられるものではない。青色の極光は確実に彼を飲みこみ、非殺傷設定の一撃はその身を消滅させる。
「見たか臆病者め! 白の国なんていう軟弱な場所で育ったお前達が、サルバーン様の下で鍛えられた僕達に敵うものか!」
高らかに勝ち名乗りを上げるレヴィだが、かなり長時間のフルドライブに加え、カートリッジの連続使用、さらには天候魔法を加えた大威力砲撃と放った後となっては流石に息が上がっている。
自身で気付いてはいなかったが、元々軽装甲であった甲冑の守りもかなり薄くなっており。もし今新手が現れればかなり厳しいことになるであろう。
だが彼女は自分の先輩といえるシュテルとその教育担当であるアルザングの力を信頼していた。その二人が夜天の騎士達を抑えている以上、そいつらがここにやってこられるはずはない。自分が仕留めた相手と同様、今頃死んでいる。
「ふう、だけどちょっとばかり疲れたな」
次の戦いに備えて意識を切り替えるまでの僅かの間、敵を打倒した後ならばどれほどの強者でも多少は抱く弛緩の瞬間、戦闘経験の浅いレヴィの場合はかなり大きな隙となり得るその時を―――
「紫電――――」
「!?」
白の国の若木の隊長たる、リュッセという少年は見逃さなかった。
「一閃!」
「しょうへ、ああああああああああああああああああ!!」
烈火の将シグナムより受け継ぎ、彼自身の魔力に合わせて修練を重ねた紫電一閃。
炎熱変換の特性を除けばもう本家とほとんど変わらないとまで言われるその一撃は、先の全力砲撃によって魔力の大半を消費し、勝利に浮かれていた人造魔導師の少女の防御を突破し、戦闘不能の傷を与え地に叩き墜とした。
「ふう、だが、これで終わりではない、追うぞ、アスカロン」
『Ja.』
そして、完璧に決まった己の策に酔いしれることなく、リュッセは冷静に敵の追撃に移る。戦闘続行が不可能な傷を与えたことに疑いはないが、安堵するには早過ぎる。
「はあ、はあ、い…たい」
上空から墜とされ、地表すれすれでなんとかリカバリーに成功したレヴィだが、それで魔力が完全に尽き、無防備の状態で地面に伏す。
何とか片膝を立てて立ち上がろうとはするものの、右肩から腰に懸けて斬られた傷は浅いものではなく、人造魔導師としての肉体に付与された自己治癒機能によってかろうじてふさがっているが、流れ出た血液までは補完しきれない。結局、立ち上がることは敵わず、自分の前に降り立った少年を見上げるのが限界であった。
「どうやって、僕の一撃を………」
「幻影魔法というものがある。多量の魔力を使うためここで再現はしてやれないが、後は自分で考えることだ」
後の時代ではフェイク・シルエットと呼ばれる、単体あるいは複数の幻影を発生させる高位幻術魔法。
肉眼や通常のデバイス類では見抜けない精度を誇るが、幻影に攻撃が直撃すると消えてしまう欠点もある。しかし、“敵を消滅させる”威力を持った砲撃魔法への囮として用いるならばその欠点も問題とはならない。
ベルカの騎士であるリュッセはこれを得意としているわけではなく、せいぜい一体しか作り出せず、一直線に飛行させる程度の操作性しかないが、戦況に合わせて組み合わせれば凄まじい威力を発揮する。
アスカロンが発生させた強烈な光、ローセスがグラーフアイゼンを用いて放つ閃光魔法アイゼンゲホイルを参考とした、閃光と音による瞬間的なスタン効果を目的とした空間攻撃によってレヴィの知覚を一瞬遮断、その間にリュッセは己の幻影を作り出し、さらに、誘導弾をその内部に仕込んだ。
リュッセが常に魔力を抑えながら戦って来たのはこのための布石でもある。レヴィが感知してきたリュッセの魔力は常に小さいものであったため、誘導弾程度の魔力でも誤認させるには十分であり、レヴィの戦闘経験が浅いこともあって効果は抜群であった。
そして、幻影目がけて大規威力砲撃を放ったレヴィが気を抜くまで魔力を探知されないよう動かずにその場で待機し、彼女が弛緩した瞬間に己の最強の一撃を叩き込む。
「君のデバイスは向こうに転がっており、魔力ももうないだろう。大人しく降服しろ、投降するならば命まではとらない」
「く…そ」
そうして、この局面における戦闘が終結した。
ベルカ暦485年 ギラルドゥスの月 白の国 北西部 上空
若木の副隊長ヴィータと、星光の殲滅者シュテル、こちらの戦いはリュッセとレヴィのものとは逆の様相を見せていた。
「せええええええい!」
ヴィータが距離を詰め、シュテル目がけて鉄鎚を振り下ろす。
「バリア」
だが、その一撃をルシフェリオンが展開した強固なバリアが防ぎきる。
「ん、ぎぎぎぎ」
一撃の破壊力こそがヴィータの持ち味であり、己の矜持かけてなんとか突き破らんとするが、
「かてえ―――」
「バリアブレイク」
バリアは破れないばかりか、逆にシュテルが破裂させ、両者は逆方向へ吹き飛ぶ。それはすなわち、両者の距離が離れたことを意味し。
「パイロシューター」
「んなっ!」
放たれる誘導弾は十二発、これまでは三発ずつ撃っていたことを考えれば、一気に四倍になったわけであり、ヴィータの驚愕も無理はない。
「こんな大量の弾、制御できるわけが―――」
「できます、私はそのように作られた。そして、この子も」
人造魔導師の第一位、シュテルはフルドライブ状態に移行した後も戦術の基本は変わらない、距離を保ったまま誘導弾を放つことは同じであってもその凶悪さはそれまでの比ではなかった。
通常状態では速度と精密な制御を備えて襲い来る誘導弾は三発ほどあったが、今や十二発の誘導弾全てが隊列を整えて襲い来る軍隊のような統率力を見せており、さらに、威力までも増している。
「シュワルベフリーゲン!」
ヴィータはベルカの騎士には珍しく遠距離攻撃を備えており、四発の鉄球を自在に操作し敵へ肉薄させるが―――
「無駄です」
シュテルの誘導弾が容赦なく鉄球を撃ち砕く。こと、誘導弾の精度を競う戦いにおいてはシュテルが圧倒的に勝っていることは疑いない。
「パンツアーヒンダネス!」
さらに襲い来る誘導弾を辛うじて全方位型のバリアで防ぐが、誘導弾はその周囲を旋回し、ヴィータが脱出できぬようにした上で一発ずつ突き刺さり、バリアに罅を入れてゆく。
「逃げ場がねえ……」
下手に動けば誘導弾の的にしかならない、かといってこのままではいずれバリアが押し切られることは目に見えている。それに敵には至近距離からの砲撃魔法という凶悪な技もあり、先程は辛うじて防げたがフルドライブ状態となった今、それを喰らえばどうなるかは火を見るより明らかであった。
「ブラストファイア」
さらに、誘導弾ばかりではなく貫通力を持ち炎熱変換の特性すら持った直射型の魔法も織り交ぜるという徹底ぶり、戦闘において無駄なことを一切せず、敵を滅ぼすことに全力を注ぐその在り方こそが、彼女が“星光の殲滅者”と呼ばれる由縁であった。
「らああああああ!!」
だが、戦機を見極める能力ならばヴィータもまた並の騎士に劣らぬどころか凌駕してさえいる。誘導弾から直射型魔法に切り替わるその瞬間にバリアを破裂させ、上方へ向けて離脱する。
だが―――
「パイロブラスト」
シュテルの読みは、さらに上回る。というよりも、彼女の性能がヴィータの想像の上を行っていたというほうが正確だろう。
十二発もの誘導弾を制御し、直射型魔法をも放ちながら、さらに砲撃魔法の準備を並列して進める。いくらフルドライブ状態にあるとはいえ三種の射撃魔法を同時に扱うなどベルカの騎士ならばおよそ考えられることではない。
「何!?」
よって、脱出先を狙うように放たれた砲撃をヴィータが予測することは不可能であった。純粋な戦術眼のみならばヴィータとシュテルではむしろヴィータの方が若干上回るかもしれなかったが、可能である事柄、という部分においてかなりの差があり、遠距離攻撃に関する性能差が戦術思考の幅にそのまま表れた形だ。
「パンツアーシルト!」
ヴィータに出来ることは咄嗟にシールドを張ることしかなかったが、バリアを自ら破裂させて急加速を行った直後だけに魔力の収束が鈍い。これでは膨大な魔力を誇るシュテルの砲撃に対し一秒も持たないであろう。
だが―――
「飛竜―――」
「む、」
しかし、続く光景に眉を顰めたのはシュテルの方であった。彼女にとっては想定外の光景がそこに顕現していたためであり、彼女は感情が出にくいだけで感情がないわけでないので、その辺りは外見相応と言えるかもしれない。
「シグナ」
「一閃!」
ヴィータが驚愕の声を上げる間もなく、シュテルの放った砲撃との間に割って入ったシグナムは、斬撃でありながらも砲撃と同等の破壊力を持つ竜の咆哮、飛竜一閃を放ちパイロブラストを相殺していた。
そして、シグナムはヴィータの隣に並び立ち、人造魔導師の少女と対峙する。と同時にこの少女が先程までの三騎とは格が違う相手であることを認識していた。
「シグナム、どうしてここに」
「リュッセに頼まれたのだ、先にお前の救援に向かってくれとな。途中、多少の妨害にあったため少々遅れたが、そこは許せ」
「多少の妨害、ですか」
シグナムの軽く流す程度の発言に反応したのはシュテル、彼女も彼女なりに仲間といえる人造魔導師達のことを気にはかけており、死ねばそれまでと割り切っているが、烈火の将に対して何も出来なかったとなれば少々人造魔導師としての矜持が傷付けられる。
彼女もルシフェリオンを通して他の人造魔導師がどのように動いているかをある程度把握しており、アルザングからの通信によって三号(ドライ)、四号(フィーア)、五号(フェンフ)の三人が相手をしたと聞いていたが、時間稼ぎ程度にしかならなかったらしい。
「あれらは、お前の同輩か、もしくは後輩といったところか。太刀筋は悪くなかったが、少々真っ直ぐ過ぎたな」
「………」
それはシュテル自身も思っていたレヴィ以下の人造魔導師の欠点であった。高い魔力量やそれを運用する技術はまさしく一流なのだが、それを戦況に合わせて組み合わせる戦術の面で拙い部分が多いのだ。
彼女は“蟲毒の主”アルザングより直接それを学んだが、レヴィは“破壊の騎士”サンジュが師であり、三号(ドライ)以下の者達は蟲毒の壺を生き抜いた者達、それがマイナスに作用しているように思われた。
生まれてより碌な知識を与えられぬまま蟲毒の壺に落とされ、生きるために殺し合う。確かにこの手法ならば生き延びることや戦うことに特化した生まれついての戦闘技能者を選別出来るが、蟲毒の壺の最後の一人となるまでは独学で戦うことなり、冷静な計算の下での戦術よりも本能のままに戦う癖がついてしまっている。
“訓練などいらぬ、修行などいらぬ、仮想敵など百人殺しても所詮は仮想、実戦こそ全て”
サルバーンやアルザングはそれを可能とする凄まじい資質と精神の強度を持っている。だが、全ての者がそうではない、ある程度の才能の者を鍛え上げ、達人の領域へ上げるならば、白の国の教導方針が適していることもまた事実であった。
「ヴィータ、これの相手は私に任せ、お前はローセスの支援に行け。遠距離攻撃が行える者がいるだけで戦術の幅は大きく変わる」
「―――――――――分かった」
シグナムの言葉に意味を考え、感情が一瞬否定しかけたがヴィータは頷きを返し、戦場から離脱していく。
このまま二人で戦いシュテルを仕留める選択肢もあるが、複数を相手にする場合は戦力的に劣る者を集中して狙うのが戦の定石だ。
つまり、ヴィータがいれば最悪“足手まとい”になりかねないということ。敵がベルカの騎士であればシグナムが前衛となり、ヴィータがシュワルベフリーゲンによって後方からの支援に徹することも出来るが、敵は遠距離戦に特化しておりシュテルの誘導弾はいつでもヴィータを狙える。
故にこそ、シグナムは一対一で戦うことを選んだ。無論、彼女が言ったとおりローセスの応援に行く役が必要であったことも事実だが、烈火の将は敵と味方の能力、様々なものを考慮に入れて判断を行っているのであった。
それを理解しているからこそ、ヴィータに否はない。ここで感情に任せて反駁するようではいつまでたっても“若木”であり、騎士になどなれはしまい。
「烈火の将シグナム、貴女が相手となりますか」
戦場から離脱するヴィータを、彼女が狙うことはなかった。幾つか要因はあったが、何よりも人造魔導師三体を破った烈火の将を一対一で打ち破り、自らの性能を証明したいという気持ちが強かった。
やはり彼女もヘルヘイムの人造魔導師であり、向上心が高かった。いやむしろ、彼女の向上心が他の個体よりも群を抜いて高かったからこそ、僅か1年で高度な戦術を展開するまでに達したのか。
「戦う前に言っておく、死にたくなければ降参しろ。手加減をする余裕はこちらにはない」
「断ります。恐らく、彼らの同じことを言ったと思いますが」
「そうか、ならば容赦はせん」
シュテルの言葉は事実を当てており、シグナムは同じ言葉を三騎の人造魔導師にかけたが否定が返ってきたため、戦闘の突入した後、三人の中では一番劣っていた杖型を持つ少女、五号(フェンフ)の首を刎ねた。
それで敵が怯めば投降を呼びかけるつもりでいたが、残る二人は怯むどころか仲間の死体の裏から槍を突き刺すほどであり、仲間の死などは彼らが蟲毒の壺において既に慣れ親しんだものであることを思い知らされた。
だが、いくら精神が戦闘者として完成していようとも、力の差というものはどうしようもなく存在する。三号(ドライ)と四号(フィーア)も程なくして炎の魔剣レヴァンティンによって両断されることとなった。敵として戦場に立つ以上、烈火の将もまた容赦などしない。
そうして、空の戦いは新たな局面、烈火の将と星光の殲滅者の死闘へと姿を変えた。
ベルカ暦485年 ギラルドゥスの月 白の国 南部 風の谷
「―――シッ!」
鋭く呼気を吐き出し、同時に放った拳が異形の肘関節を砕き、絶叫、悲鳴、怒号が吹き荒れる。
如何に改造種(イブリッド)であり、生存本能が欠落した、止まるまで動き続ける暴力機構であるとはいえ痛覚というものがなくなったわけではないらしい。いや、痛覚があるにも関わらず死を恐れず暴れ続けることこそが異常なのか。
背後から一際大きい異形が襲いかかってくるが、振り向くこともなく後方へ蹴りを放つ。
盾の騎士の踵はその異形の顔面を文字通り粉砕し、彼はその情報を即座に脳から締め出すと同時に次の敵へ意識を振り分ける。ここは戦場、死などどこにでも溢れており死者になど用はない、戦う術を持つ生者にのみ我が拳は振るわれる。
「AAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!」
奇声というべきか、怒号というべきか最早判別不能な叫びと共に、十数人の異形が同時に槍を投擲する。こと相手を殺す場合に限り、姿形すら異なる異形達は一つの方向性を持つらしい。
だが、それを目視する前にローセスの身体が動いていた。歴戦の騎士が持つに至る“直感”、いや、“心眼”と呼ぶべきか判断がつきかねる感覚に従い、彼は自身に迫る脅威を回避していた。
この状況において、生死はコインの裏表のようなもの。一つでも間違えれば即座に荒波に飲まれることは間違いなく、綱渡りのような攻防をローセスはもう何度繰り返したか数えるのを諦めた。
『Es ist der Hintern!(背後です!)』
背後から襲い来る長剣の一撃を紙一重で躱し、魔力の籠った拳によって鎧ごと撃ち砕く。その隙に四方八方から敵味方区別ない攻撃が殺到するが―――
「おおお!」
鉄壁の構え
盾の騎士ローセスの代名詞とも呼べる防御シールド、それを如何なる体勢からでも繰り出せることこそ彼が守勢に長ける最大の理由であり、瞬時に形成されたシールドがあらゆる脅威を防ぎきる。シグナムの飛竜一閃ですら、ローセスの防御を突破することは叶わない。
『Eine grose Menge kommt!(大群、来ます!)』
「鋼の軛!」
そして、彼目がけて大群が殺到する瞬間こそまとめて撃ち滅ぼし、僅かながら呼吸を整えるだけの時間を得る好機。ローセスが放った赤色の串刺し杭、鋼の軛は一度の百を超える異形を刺し貫き、白の国の門たる風の谷を赤く染め上げる。
「はあ、はあ、これで何体だ?」
『Es ist ziemlich 1300.(およそ、1300)』
「十分の一程度は、超えてくれたか」
風の谷で防衛戦を開始してより、ローセスはグラーフアイゼンを用いず己の肉体のみで戦っている。彼の持つ融合騎“ユグドラシル”はこれまでにない速度で回転しており、生み出される魔力は彼の身体を破壊せんとするほどに体内に満ちている。
ローセスの戦闘スタイルは堅い防御によって敵の攻撃を受け止め、拳や蹴りによって反撃に転じるカウンターこそが基本。グラーフアイゼンを用いる場合は伸ばした柄を用いた援護や、ラケーテンフォルムからの強襲、さらにはギガントフォルムによる渾身の一撃などとなる。
だが、今彼が相手にしているのは嘆きの遺跡の下層に潜む魔物でもなく、大型の怪物でもない。戦闘能力そのものは普通の人間とそれほど大きく違いはないが、夥しいまでの数を誇り、死を恐れることなく突き進んでくる津波の如き異形の群れ。
これを相手にギガントフォルムなどを用いればたちまち魔力が枯渇してしまい、ラケーテンフォルムの強襲も防衛戦においては意味のある選択ではない。必要最低限の動作と魔力で敵を滅ぼし、集団で殺到した場合は鋼の軛でもってまとめて串刺す。
それが、現状の彼に許された唯一の戦術であり、一度押し寄せる波に飲み込まれれば後がない状況での綱渡り。空戦を可能とする彼ならば突破されようともさらに後方に展開し直すことも出来るが、その際にどれほどの傷と魔力の消耗を覚悟せねばならないかはあまり考えたくない事柄であった。
加えて―――
「はあああ!」
『Durch Aufmerksamkeit bin ich wieder anders als vor einer Weile.(注意を、先程とはまた違います)』
押し寄せる異形は中隊単位で別の種類となっており、ローセスが対応にある程度慣れた段階で次と入れ替えるという戦術が繰り返し行われていた。
それはすなわち、この異形の軍勢を指揮している人間の指揮官がいることを示している。恐らくはサルバーン配下の騎士であろうが、ただでさえ人間より強力な異形が陣形を組んで襲いかかってくるというのはまさしく悪夢でしかない。
だが、そんなことで怯むような者はそもそも一人で谷を死守するために立ちはだかることなどしない。そればかりか、彼は敵の指揮官が姿を表せばグラーフアイゼンのラケーテンフォルムで持って切り込み、叩き潰すつもりでいた。
ローセスが己の肉体のみで戦う理由には、グラーフアイゼンの力を敵に見せず、戦機において使用することもあった。
「おおおお!」
加速、跳躍、飛脚、掌打、ありとあらゆる体術を用い、“ユグドラシル”によって強化された肉体は異形の軍勢を薙ぎ払う。
盾の騎士ローセスは人間であり、その力には当然限りがある。どんなに強くとも戦い続ければ疲労がたまり、疲労がたまれば動きは鈍くなる。そして、動きが鈍くなれば傷を受け、それが徐々に体力そのものを低下させる。
故に彼は、心を堅くする、拳に力を込める。絶望こそが最大の敵であり、この身はまだまだ動くのだ。
柔軟に、強靭に、どれほどの異形が殺到しようとも白の国を守る盾は砕けないと知れ。
「旋剛脚!」
2メートルを超える巨体を蹴り飛ばし、さらに背後の敵に拳を叩き込む。それらの攻撃には一切の加減はなく、殺すこと前提の全力の拳であり蹴。
とはいえ、いくら夜天の騎士の中で最も長い戦闘継続時間を誇るローセスであっても、休みなく戦い続ければ魔力や体力が続くはずもない。にもかかわらず、彼の動きには衰えというものが感じられないのはなぜか。
それこそが、白の国に張り巡らされた防衛策の一つ、体力と魔力の回復を行う結界陣。この風の谷にはリンカーコアに作用し体力と魔力を回復させる結界が張られており、ここで戦う限りは常に回復魔法を受けているような状態となる。その術式を破られないようラルカスの手も加わっているため、これを破れるとすれば黒き魔術の王サルバーンくらいであろう。
ただし、当然のことながら味方だけを回復させるといった器用な設定を出来るはずもなく、侵攻してきた騎士や魔術師も回復してしまうこととなる。少数精鋭こそが夜天の騎士の特徴である以上それなりに効果はあるが、敵も回復しながら射撃魔法を放てるような状況ならば結局は押し切られることは目に見えている。
だがその問題も、融合騎“ユグドラシル”によって解決された。現在の風の谷に張られた結界はリンカーコアではなく“ユグドラシル”に働くように調整されており、最終的にはリンカーコアに働くが融合騎を挟んだ間接的なものとなっている。
故に、ローセスはカートリッジロードを伴う大技を使用しなければほぼ無限に戦い続けることも不可能ではない。この風の谷は紛れもなく彼の領域であり、盾の騎士がその本領を発揮するためのあらゆる環境が整っている。
<だが、これはあくまで回復の結界であり、治療の結界ではない>
体力と魔力が十全ならば多少の怪我は問題にならず、自己治癒も早くなることは事実だが、それでも傷というものは生体機能を損ない、特に出血した場合は失った血を取り戻すことは出来ない。
故に、彼の戦いが綱渡りである事実は揺るがないのだ。際限なく押し寄せる異形は死を恐れず突き進み、それを防ぐ騎士もまた死を恐れずに殴り蹴り砕き破壊を振りまき、狂乱の戦を演出する。
それはさながら、死を超えた戦士が踊り狂う死の舞踏(トーテンタンツ)。
そこに日常などが入り込む余地などありはしない、狂った条理が君臨し、死者を増やし続ける煉獄こそが戦場なのだから。
しかし、そのような地獄にあってですら―――
「ここは、通さぬ!」
盾の騎士ローセスは倒すためではなく、守るために戦い続ける。それこそが彼の誇りであり、彼の騎士道の具現。
「牙獣走破!」
幾千の異形が押し寄せようとも、彼は難攻不落の盾であり続ける。例えその果てが分かりきった結末しかあり得なくとも、彼は戦い続ける。
己の仕える白の国を、ただ一人となった妹を、共に戦って来た友を、教え導いていた若木を、そして、敬愛する主であり一人の男として愛する女性を守るために。
ローセスは、戦い続ける。
ベルカ暦485年 ギラルドゥスの月 白の国 中央部 ヴァルクリント城
【ザフィーラ、戦況はどうなっている】
白の国の中央部に位置するヴァルクリント城において、調律の姫君フィオナは自らが製造した視覚情報収集端末、いわゆるサーチャーからもたらされる情報を整理しつつ、夜天の騎士達の戦況を城を守護する賢狼に通信専用の端末を用いて尋ねていた。
白の国の若木の年少組と調律師達が協力して地上の建物の防衛にあたり、民の大半は既にヴァルクリント城へ避難完了。なおかつ周辺の敵はシグナムとザフィーラによって駆逐され、年長組四名も防衛にあたっているのでこの方面において敵影は見られなくなった。これは一先ずの戦果と呼べるだろう。
残る問題は、白の国へ飛来した魔導機械や改造種(イブリッド)から各地の空を守護する年中の若木達と、敵の主力と見られる人造魔導師と相手にしている夜天の騎士たち。空戦の騎士達が暴れまわる戦場ではサーチャーはほとんど役に立たず、機械精霊達からの言葉を遠隔で受け取ることが出来るのは放浪の賢者ラルカスのみであるため、ザフィーラの念話能力に頼る他はない。
彼の念話能力、というよりむしろ聴覚ならば、シグナム、ヴィータ、リュッセの念話を聞き取ることも可能であるが、彼から伝えることはそれほど得意ではないため、司令塔として機能することは難しい。そして、彼の聴覚をもってすら聞き取れぬ遠くで孤軍奮闘する男が一人、それこそがフィオナの不安を煽る存在でもあった。
≪リュッセは敵の打倒したようだ。ヴィータは苦戦していたようだがシグナムが合流し、入れ替わるようにローセスの下へと向かった。だが、敵の司令官であるアルザングの姿が見えんことが気がかりだ≫
【では、“蟲毒の主”がヴィータやリュッセを狙う可能性もある、ということなのか】
≪うむ、流石にシグナムならば遅れを取りはすまいが、リュッセやヴィータではまだ荷が重かろう。それに、奴の配下たる人造魔導師は複数おり、まだ幾人かが潜んでいるようだ。もっとも、若木達が狙われる可能性は低いと思われるが≫
【その根拠は?】
≪人道魔導師の主が“蟲毒の主”であるということだ。白の国を攻め落とすならば主戦力を投入する相手は夜天の騎士か、それに次ぐ若木の両隊長、もしくは、そなたかだ≫
【………今、私が狙われれば、成す術はないな】
彼女が王女であることを考慮すればそれはあり得ない事態であったが、フィオナは自身の護衛を置かず、夜天の騎士の全騎を迎撃へと送りだしていた。もっとも、サルバーンによって潰されたシャマルは医療塔で休ませており、そこには若木の年長組の一人が常につき、怪我人が狙われぬよう目を光らせていた。
≪本当に良いのか、我の位置からでは即座に駆けつけることは出来んが≫
【構わない、むしろ、敵が私を狙ってくるならば好都合というものだろう】
夜天の騎士達の目的は白の国を守り通すこともあるが、“竜王騎”の鍵を黒き魔術の王とその軍勢に渡さないことも同等、もしくはそれ以上の重要事であった。
だとすれば、フィオナの言はおかしい、それでは矛盾している。“竜王騎”の鍵を決して渡せぬ筈ならば、ヴァルクリント城の守りは鉄壁でなければならず、烈火の将が打って出たばかりか、賢狼までも外周の遊撃役となっているなどおよそ考えられることではなかった。
しかしそれも、ある前提条件が満たされていればの話に過ぎない。戦場において虚実は入り乱れ、常識的に考えてあり得ない策こそが窮余を凌ぐ起死回生となり得るのだ。
すなわち――――
【私が囮となれば、敵は必ずや狙ってくる。戦闘能力も鍵も持たぬ、ただの調律師をな】
調律の姫君フィオナは、夜天の騎士達が入手した“竜王騎”の鍵を保持していない。かといって、城内の蔵などに収められているわけでもなく、そもそもそのような場所にあるならば彼女もこれほど悠然と構えてはいられないだろう。
にもかかわらず、フィオナが悠然と構えていられる理由はただ一つ。現在、“竜王騎”の鍵はこの白の国で最も安全な場所にあり、かつ敵がそれを知ることが不可能な状態にあるために他ならない。
その場所こそ―――
≪聞かされた時は驚いたがな、まさか、前線で戦うシグナムに鍵を預けるとは≫
白の国における最強の騎士、烈火の将シグナムの手元に他ならない。既に一度敵軍の司令官である“蟲毒の主”アルザングが彼女と相対していたが、その腰にあるレヴァンティンの鞘の隣にある杖型デバイスこそが“竜王騎”の鍵であるとは見抜けなかった。
大切な物を守り通すならば最も堅牢な場所に隠す。その心理を逆手に取った大胆な策であり、さらにはシグナム自身が敵の攻撃を防ぐための防具として“竜王騎”の鍵を堂々と使用しているというとんでもない事実がある。
“竜王騎”の鍵は生半可な手段では破壊することは敵わない。それはすなわち、鞘の代わりに用いて敵の攻撃を防ぐことも可能ということ、まさしく蛮行と呼ぶべき行為であり、仮に思いついたとしても実行に移す者は滅多にいないであろうが、烈火の将シグナムはそれを成す戦術眼と度胸を兼ね備えていた。
【この白の国において、将の下以上に安全な場所などない。それに、仮に白の国が滅ぶとも、彼女ならばハイランドのカルデン殿の下まで一人で辿りつける】
湖の騎士シャマルが健在ならば他の策もあったが、この状況ではそれぞれの能力によって敵を打倒し生き延びるより他はない。ならば、もし白の国が墜ちることとなった際に最も生き延びる可能性が高いのは誰か、言うまでもなくそれは烈火の将でしかあり得ない。
そのような策を敷いた上でシグナムは人造魔導師の少女シュテルと対峙しているが、それ故に特攻に近い攻勢をかけることは出来ず、時間をかけて実力差でもってして押し潰す戦術を取ることとなるため、他の救援に回りにくいという点も確かであった。
≪だが、その時は他の者は助かるまいな、民は当然逃がすこととなるが、騎士や若木達はその盾となって果てることだろう、そしておそらくは、そなたも≫
【………】
賢狼の忠告とも取れる言葉に対し、フィオナが想ったことは自身の未来ではなく、盾となって滅ぶ者の際その一人となるであろう、予言を受けし愛する男のことであった。
彼の戦場、風の谷だけは戦況がまるで把握できていない、賢狼の耳を以てしても念話が届かぬほど遠く、精霊の力や回復の陣などがあるため、サーチャーなども置くことが出来ない。盾の騎士ローセスはまさしく孤軍奮闘と言える状況なのである。
援軍を送ろうにも、それは生半可な実力のものでは意味がない。ローセスの戦う風の谷には敵の地上戦力の全てが集中しているに違いなく、年少の若木などでは崖から突き落とすようなものだ。
【ザフィーラ、お前が救援に向かうことは出来ないか?】
シグナムもまた人造魔導師と相対し、“蟲毒の主”がまだ潜んでいる可能性が高いならば彼女が向かうわけにはいかない。ヴィータが向かっているようではあるが、状況からして人造魔導師の一部が彼女の足止めに回ることも考えられる。
となれば、フリーに動けるのはリュッセかザフィーラとなるが、機動力で言うならばザフィーラが勝っており、何よりもヴァルクリント城の安全がほとんど確保された今、彼の存在は遊兵となりつつある。戦における下策とは戦力でありながらも戦場に投入できない遊兵を作ってしまうことである。
≪残念だがそれは出来ん、我が友ローセス、そして、夜天の将シグナムよりそなたを守るようにと頼まれた。決して破れぬわけではないが、現状ではまだ破れぬ≫
【それは…………分かるが】
仮に“竜王騎”の鍵を持っていなくとも、フィオナは白の国の王女であり、夜天の騎士達にとっては守るべき主君。であるからには、彼女を危険に晒す策を騎士から提案するわけにはいかず、受け入れることも難しい。
そんな騎士達の心を汲み、賢狼は自分がフィオナの傍を離れることは難しいと答えたのである。
そして、調律の姫君フィオナは聡明であり、ここでザフィーラを城の守りから離すことは城に集った民を危険に晒すことであることを理解していた。
【だが………私の騎士達が命を懸けて戦う中、私だけ何も出来ぬまま座視してはいられないのだ】
しかし、彼女には儚げな印象があるが、芯は非常に強い女性であることは夜天の騎士はおろか若木、民ですら知っている。そして、そんな彼女がローセスに課せられた予言が成就しつつあるこの時をただ座して耐え忍ぶことを選ぶはずもなく。
【すまないがザフィーラ、私のわがままにつきあって欲しい】
懇願することもなく、詫びることもなく、王者としての威風をもって、調律の姫君フィオナは己の選択した道を賢狼ザフィーラへと告げていた。
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△△△ アルザング △△△△
△△△ シュテル △△△
△△△ シグナム △△△
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△△ ズィーベン △△△
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△△ ヴィータ フィオナ △△
△△ ザフィーラ リュッセ △△
△△ レヴィ △△△
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△△△ アハト △△△
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△△△ ノイン △△△
△△△ ゼクス △△△
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ローセス